東京地裁 令和6年3月15日判決
原告の自賠責12級6号右肩関節機能障害は右手や右腕の動作に目立った支障は見られないと否認し、同12級5号右鎖骨変形障害は身体的機能に支障が残ったと10%の労働能力喪失で逸失利益を認定した
解説
【事案の概要】
原告(50代男性)は、道路を自転車で走行中、左方の路外施設から道路に進入した被告車両に衝突され、右多発肋骨骨折、右外傷性気胸、右鎖骨骨折等の傷害を負い、20日入院、約1年6ヶ月間通院しました。
自賠責12級5号鎖骨変形障害、同12級6号右肩関節機能障害から併合11級認定の後遺障害を残して、自転車買替費用等約310万円を含む約4840万円及び原告が代表取締役を務める会社の反射損害等約610万円を求めて訴えを提起したものです。
東京地方裁判所は、原告の自賠責12級6号右肩関節機能障害の残存を否認し、12級5号右鎖骨変形障害の労働能力喪失率を10%と認め、年額1200万円を基礎収入に67歳までの12年間につき後遺障害逸失利益を認定しました(確定。自保ジャーナル2173号53頁)。
【裁判所の判断】
裁判所は、右肩関節の機能障害について、令和2年11月24日付けの後遺障害診断書には、自覚症状として、右肩が回せない、可動域を超えて動かすと痛い、右を下にして横向きに寝ることができない等の記載があるとしました。
しかしながら、原告は、令和3年6月9日以降、マラソンの完走直後や標高3198メートルの山への登頂時などに、腕を伸ばして頭より高い位置まで両手を上げている写真を繰り返し投稿している。いずれの写真でも、左右とも手は概ね体の真横方向で、手の高さや腕を上げている角度には大きな左右差はないとしました。そして、右手だけを上げている写真も複数あることを指摘しました。
また、原告は一定時間に及ぶ本人尋問において身振り手振りを繰り返す際、主に右手を動かしており、法廷で見る限りでは右手や右腕の動作に目立った支障は見られなかったとも指摘しました。
そのため、原告の右肩関節にそれ自体を独立して考慮すべき程度の後遺障害が残存したとは認定できないと判断しました。
一方、右鎖骨の変形障害については、原告は症状固定時55歳であり、経歴に照らしても転職や業務内容の大幅な変更も考え難いとしました。症状固定から間もなくフルマラソンを完走するなどしており、右鎖骨の変形障害を原因として労働能力を喪失しているのか疑問であるとしました。
しかしながら、右鎖骨の変形障害や右肩付近の痛みにより、執務上、一定の支障が生じているという原告の供述が全くの虚偽であるとまでは考え難いとしました。
そのため、本件事故による負傷によって身体的機能に支障が残ったこと自体は否定できないことなどを踏まえ、労働能力喪失率を10%として逸失利益を認定したものです。
【ポイント】
肩関節機能障害や鎖骨変形障害は実務上、見受けることが多い後遺障害になります。
本件は、事故後の生活状況(マラソンや登山)、そして裁判における挙動などを元に、裁判所が自賠責と異なる判断をしており、参考になります。