大阪地方裁判所 令和6年6月19日判決
原告が同乗者と大型自動二輪車を運転中に対向車を避けて側溝に転落し損傷したとする車両共済金の請求は、本件事故を体験した者の証言としては不自然であるから、原告が故意に生じさせたと推認し請求を棄却した
解説
【事案の概要】
原告(40代男性)は、同乗者(女性)と大型自動二輪車を運転して走行中、対向の自動車との衝突を避けるため右に回避したところ、側溝に転落して損傷し、原告及び同乗者が飛ばされて本件側溝に隣接する店舗に設置された板塀を突き破って破損させたとして、車両共済金290万円、対物賠償共済金約8万円を求めて訴えを提起しました。
裁判所は、本件事故は原告が故意に生じさせたと推認することができるとして、原告の共済金請求を棄却しました(控訴中。自保ジャーナル2173号159頁)。
【裁判所の判断】
大阪地方裁判所は、原告の供述内容について、本件事故は冬季の午後7時過ぎに発生したのであるから、対向自動車が存在したのであれば、前照灯を点灯させていたと考えられ(原告本人も光が見えたと供述している。)、別紙1記載の可能性のあるルート2である場合はもちろんのこと、別紙1記載の可能性のあるルート1であったとしても、対向自動車の車体より先に原告の進路前方に対向車の前照灯による光が見えたはずであり、光と車体に同時に気づいたというのは不合理であると指摘しました。
そして、原告の供述内容は、自らの体験に基づいて事故の状況を説明するものとはいえず、本件事故後に、本件車両が本件側溝に落ちていた状況や、原告が説明する事故の状況に整合するように説明を加えるものであり、さらに、本件車両の車体を右に傾けた後にまっすぐの状態に戻したという点については、自らが体験した事故の状況を説明するというより、原告及び同乗者が、本件塀の手前で本件車両から落下することなく、本件塀に衝突したことを導くために、本件車両の車体を右に傾けた後にまっすぐの状態に戻したという説明を加えているといえるとも指摘しました。
また、証人である同乗者は、本件事故の際、視界を遮るものはなく、前方が見えていたと証言しつつ、対向自動車について、目の前から来た旨、最初に発見した際に、前方10メートル以内の道路上にいた旨、白っぽい普通車、セダンのような車だったと思う旨、原告は、本件車両の車体を右に傾け、右に避けた旨、本件事故の衝撃により本件塀を突き破って、本件塀より本件店舗の建物側に移動した上、本件塀に穴が開いた地点より数メートル北に飛ばされた旨証言しました。
これに対して裁判所は、証人は、質問をされても、上記内容を繰り返すばかりで、これ以外に本件事故に関する具体的な説明をしておらず、実際に本件事故を体験した者の証言としては不自然であるとしました。
また、本件事故後に本件車両が本件側溝に落ちていた状況や本件側溝の損傷状況等から本件事故の状況を説明するものであって、実際に体験した内容を供述するものとはいえず、また、走行経路についての説明も変遷しており、原告が警察官に対して本件車両により印象されたものと説明したと推認できる本件走行痕とも異なることから、原告は、本件事故が発生した際の実際の状況をあえて説明せず、意図的に隠していると判断しました。
そして、本件塀について、長方形の穴が開いたという損傷状況が、原告らが衝突したことと整合するかどうかに疑問が残ること、原告に複数の事故歴があること、また、本件車両についても、令和3年8月以降、本件事故が3度目の事故であったこと、原告は、前々件事故による損傷についてその一部しか修理していなかったことなどを総合すると、本件事故は、原告が、本件車両を本件側溝に水没させ、全損状態とすることを目的として、故意に生じさせたものと推認することができると認定しました。
こうして裁判所は、本件事故は原告の故意によるものであると認められるから、その余の争点について判断するまでもなく、被告らは、本件約款に基づき、原告からの車両共済金及び対物賠償共済金の支払請求を拒むことができるとしました。
【ポイント】
裁判所は、原告及び同乗者の証言内容を子細に検討して信用性に疑問を投げかけた上、塀の損傷状況、過去の複数の事故歴、本件車両も3回目の事故であったことなどから故意を認定してます。
なお、原告や同乗者が傷害を負っている点について、裁判所は、「通常は負傷してまで故意に事故を生じさせるとは考え難いことから、原告が本件事故を故意に生じさせたことを否定する方向に働く事実ではある」としつつも、負傷の程度が重症でないことや体験した事実をそのまま説明していると認められないことなどから、負傷の事実をもって本件事故が原告の故意によって生じたものであることを否定することはできないと判断しており、参考になります。