東京地裁 令和5年6月30日判決
いまだ症状固定せず嚥下障害及び脳脊髄液漏出症から9級10号後遺障害を残存したとの主張に対して、後遺障害の残存を否認し事故後約6ヶ月で症状固定と認め、損害は既払金で填補済みと認定した
解説
【事案の概要】
X(女性・看護師)は、信号のない交差点を普通乗用車を運転して走行中、右方路から進入してきたY運転の普通乗用車に衝突され、中心性頸髄損傷、右肩打撲傷、頭部挫傷等の傷害を負い、いまだ症状固定に至らないが、嚥下障害及び脳脊髄液漏出症から9級10号後遺障害を残したとする主張に対し、YがXに対する損害賠償債務が存在しないことの確認を求めて訴えを提起した事案です(自保ジャーナル2156号35頁。確定)。
裁判所は、Xの症状固定時期を本件事故後約6ヶ月で症状固定と判断した上、後遺障害の残存を否認して、Xの損害は既払金で填補済みと認定しました。
【裁判所の判断】
まず症状固定時期について、「Xは、本件事故当日に右頸部から肩の自発痛、肩から指先のしびれ及び右側頭部の鈍痛を訴え、その後腰部や足部等の疼痛や吐気をも訴えていたところ、令和2年6月までに実施された各種画像検査上明らかな外傷性の所見は認められず、C整形外科クリニックの診断書上は令和2年3月以降Xが当初訴えていた疼痛等の症状が軽減し、同年7月には疼痛が間歇性のものになり、その後は特段の変化が見られない上、神経学的所見上も特に問題が見られないとされている」上、「本件事故の態様が減速していた車両同士の衝突であることを併せ考慮すれば、本件事故と相当因果関係を有する受傷内容は身体各所の打撲、捻挫及び挫傷であり、本件事故から6ヶ月間程度の令和2年6月末日までには症状固定に至ったと認めるのが相当である」として、本件事故後約6ヶ月で症状固定したと認定したものです。
またX主張の嚥下障害及び脳脊髄液漏出症の残存について、「Xは、嚥下障害やめまいを訴えて医療機関を受診し、後者に関連して脳脊髄液減少症と診断されているものの、主治医がX訴訟代理人からの照会に対しMRI画像上は漏出が見られなかった旨回答している上、本件証拠上、Xが起立性頭痛を訴えたのが令和4年7月に至ってからと認められることを踏まえると、Xが本件事故によって脳脊髄液減少症を発症したと認めることはできない」他、「嚥下障害の主訴については、検査の結果明らかな異常が認められていない」として、後遺障害の残存を否認しました。
さらに、過失割合については 、「Xが減速した上で交差点に進入したところ、右方から減速した上で進行してきたY車がX車と衝突し、Y車には左前部バンパー擦過痕等の損傷が、X車には右側面凹損等の損傷が、それぞれ生じた」と事故態様を認め、X及びYとも「交差点に進入するに際し、交差道路から進行してくる車両の有無に留意し安全を確認して進行すべきであるのにこれを怠った過失があると認められるところ、Y車の走行する道路に一時停止規制が設けられていたことからすれば、本件事故の発生に関する主要な過失はYにあるというべきであり、過失割合をY80、X20とするのが相当である」として、X車の過失を2割と認定しました。
そして、被告の損害は全て填補済みと認定したものです。
【ポイント】
事故状況や受診状況等と被害者の訴える損害(後遺障害)が整合しない可能性がある場合、いわゆる加害者側から債務不存在確認訴訟を提起することもあります。
債務不存在確認訴訟の提起を受けて、通常は、被害者側から反訴を提起します。そして債務不存在確認訴訟については取り下げて、反訴について審理されることが通常です。
本件は、反訴提起されずに、債務不存在確認訴訟について審理され、裁判所は、症状固定時期を認定して具体的損害額も確定しているとして、「本件訴えには確認の利益が認められる」と判断したものです。