解説
【事案の概要】
自転車にて走行中、路外から出てきた車両に接触され転倒し、被害者(30代男性)が全身打撲、右肩打撲、右手間接捻挫等の傷害を負った事案です。
骨折はなく打撲自体は治まったたため、保険会社は早期治療終了(一括対応の終了)を申し入れてきました。
しかし被害者は利き腕の右手の握力低下、痛み・痺れに悩まされて、治療を継続しました。
そして治療に納得できず、転院した病院にてTFCC損傷と診断されて、鏡視下TFCC切除術を行いました。術後、骨癒合が得られて抜釘し、リハビリ治療して症状固定に至りました。
その上で、被害者から依頼を受けて被害者請求をしましたが、最初の自賠責の判断は、他覚的所見なしということで後遺障害非該当でした。
【異議申立てのポイント】
そこで被害者と打ち合わせて異議申し立てを行うことにしました。
まず弁護士法23条照会によって刑事記録を取り付けました。自賠責の判断においても事故の状況・受傷が事故状況と矛盾にないこと等は重視するからです。
また、TFCC損傷と診断して手術を行った医師に改めて後遺障害診断書を作成してもらいました。
なお弁護士の中には医師に対して後遺障害診断書の記載内容について申し入れたり、面談することもあるようです。しかしながら弁護士の働きかけは医師の理解を深めることもある反面、反発を受けたり、後々診療録(カルテ)を取り寄せた際に、弁護士の働きかけとして批判的に記載されていることもあり、信用性に疑義が生じることもあります。そこで私の場合は依頼者と十分に打ち合わせた上、依頼者が患者としてきちんと医師と向き合って、医師の理解の上で後遺障害診断書を作成してもらうように心がけています。
そして診療録(カルテ)の開示手続きを行い、診療録(カルテ)を自賠責に提出するとともに、治療経過と症状についてポイントをついた書面を作成するようにしています。なおこの際、注意するのは、型通りの書面では意味がない一方、準備書面のように長々とした書面でも効果的ではありません。場合によっては一覧表で症状の推移をまとめたり、とにかくポイントを突く(こちらが重視しているカルテの記載を端的に指摘する)ことが肝要です。
また同種事案の裁判例を調査して、解説を加えた上で一緒に提出します。
さらに、今回は協力医の医学意見書までは作成しませんでしたが、ケースによっては簡単でも良いので医学意見書を付けるようにしています。
以上の内容にて異議申立てをした結果、無事、「局部に神経症状を残すもの」として自賠責14級9号が認定されました。