高次脳機能障害
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高次脳機能障害とは
高次脳機能障害とは、頭部外傷により意識障害を負った者が、治療の結果意識を回復したが、意識回復後に認知障害と人格変性を生じて、社会復帰が困難となる後遺障害をいいます。
認知障害
- 記憶障害
- 集中力障害
- 遂行機能障害
- 判断力低下
- 病識欠落等
人格変性
- 感情易変
- 不機嫌
- 攻撃性
- 暴言
- 暴力
- 幼稚性
- 多弁
- 自発性低下
- 病的嫉妬
- 被害妄想等
従来の交通事故による被害では、脳損傷(脳挫傷、硬膜下血種)はCTやMRIで確認できるものを対象としていました。ですが、脳表面には異常がなくても、脳内深部の神経軸索が広範囲にわたり損傷を受ける、いわゆる「びまん性軸索損傷」においては、MRI等の画像では直接確認できないこともあります。
このようなケースについて後遺障害の認定が問題視されてきたのが、この高次脳機能障害の問題になります。
高次脳機能障害がクローズアップされた理由としては、まず救急医療が進歩して救命されるとともに脳の分析が進んだこと、そして、社会の複雑化・都市化を経て交通事故の被害についてこのような心身状態についての理解が進んだことがあげられます。
自賠責による高次脳機能障害の認定開始
このような問題意識から議論が進み、旧自動車保険料率算定会(現在の損害保険料率算定機構)が平成13年1月から、新しいシステムに基づく高次脳機能障害の認定作業を開始したのです。
高次脳機能障害の判断にあたっては以下の4つが基本的な要素になります。
- 事故により頭部に外傷を生じたこと
- 受傷後の意識障害
- 意識回復後の認知障害及び人格変性
- 第3脳室の拡大や脳の全体的な委縮がMRIで認められること
受傷後の意識障害とは
前記②の「意識障害」については、意識障害の程度が重く、半昏睡から昏睡で開眼・応答しないような状態、つまり、JCS(ジャパン・コーマ・スケール)が3桁、GCS(グラスゴー・コーマ・スケール)が8点以下の状態が6時間以上存在した場合には、予後が悪く高次脳機能障害を残すことがあるとされます。
また、健忘症又は軽度意識障害、つまり、JCS(ジャパン・コーマ・スケール)が2桁、GCS(グラスゴー・コーマ・スケール)が13~14点が1週間以上続いた場合にも高次脳機能障害が残ることがあるとされます。
- JCS(3・3・9度方式)・・・意識レベルを表すもので、日本で使用されている。数値が大きいほど重症とされる。
- GCS・・・意識レベルを表すもので、主にアメリカで使用されている。15点満点で、8点以下が重症とされる。
意識回復後の認知障害及び人格変性とは
前記③の「意識回復後の認知障害及び人格変性」については、WAIS-R(脳の全般的な機能の検査)、WMS-R(記憶に関する検査)等の神経心理学的な検査が参考にされることになります。
高次脳機能障害の等級認定とは
高次脳機能障害では、常時介護を要するものが1級、随時介護を要するものが2級とされます。そのほか、細かく認定されており、3級、5級、7級、9級に区分されています。
評価に渡り相対的ですが、自賠責の認定においては以下のように定義づけられています。
1級 | 身体機能は残存しているが高度の痴呆があるために、生活維持に必要な身の回り動作に全面的介護を要するもの |
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2級 | 著しい判断力の低下や情動の不安定などがあって、1人で外出することができず、日常の生活範囲は自宅内に限定されている。身体動作的には排泄、食事などの活動を行うことができても、生命維持に必要な身辺動作に、家族からの声掛けや看視を欠かすことができないもの |
3級 | 自宅周辺を一人で外出できるなど、日常の生活範囲は自宅に限定されていない。また声掛けや、介助なしでも日常の動作を行える。しかし記憶や注意力、新しいことを学習する能力、障害の自己認識、円滑な対人関係維持能力などに著しい障害があって、一般就労が全くできないか、困難なもの |
5級 | 単純繰り返し作業などに限定すれば、一般就労も可能。ただし新しい作業を学習できなかったり、環境が変わると作業を継続できなくなるなどの問題がある。このため一般人に比較して作業能力が著しく制限されており、就労の維持には、職場の理解と援助を欠かすことができないもの |
7級 | 一般就労を維持できるが、作業の手順が悪い。約束を忘れる、ミスが多いなどのことから一般人と同等の作業を行うことができないもの |
9級 | 一般就労を維持できるが、問題解決能力などに障害が残り、作業効率や作業維持能力などに問題があるもの |
高次脳機能障害の損害
高次脳機能障害を後遺した場合、各後遺障害等級に基づいて、総損害額を算定して加害者(自賠責保険、加入している任意保険会社)に請求していくことになります。
労働能力喪失率は、1級・2級・3級が100パーセント、5級が79パーセント、7級が56パーセント、9級35パーセントになります。
高次脳機能障害の被害は、基本的には前記の等級に区分されるとはいえ、被害者の実情に応じて個別性が強いことも特徴です。
例えば、日常生活動作(ADL)は自立しているものの、声掛けや看視を中心とする付き添いが必要な場合も少なくありません。そのような場合には3級以下の認定であっても、将来介護費の必要性が認められる場合も出てくるのです。