大阪高裁 令和4年12月15日判決
駅前ロータリー先の信号のない丁字路交差点を横断中の母子に衝突した右折車両の過失は相当に大きいと歩行者過失を5%のみとし、祖母の固有慰謝料含め2650万円と認定した
解説
【事案の概要】
母親が、駅前ロータリー先の信号のない丁字路交差点を子と一緒に横断歩行中、右折車両に衝突され、子が死亡し、母が左橈骨遠位端骨折、左尺骨茎状突起骨折、左母指基節骨骨折等の傷害の他、心的外傷及びストレス因関連障害等の精神障害を負い、6日入院を含め、約1年6ヶ月間通院しました。
母親は自賠責12級6号左手関節機能障害、同12級8号左尺骨変形障害、同13級7号右母指欠損障害、同12級13号非器質性精神障害から併合11級認定の後遺障害を残したため、子の相続分を含めて約6400万円を求め、子の父親が同相続分を含めて約3200万円、子の祖母が約110万円を求めて訴えを提起た事案です(自保ジャーナル2149号127頁。確定)。
【裁判所の判断】
裁判所は、過失割合について、「本件交差点は、交通整理が行われておらず、横断歩道のない丁字路交差点であったから、乗用車運転手は、本件交差点に進入するに際して、本件交差点又はその直近で、横断歩道の設けられていない場所において歩行者が道路を横断しているときは、その歩行者の通行を妨げてはならない注意義務があったにもかかわらず、これを怠り、母親及び子が本件交差点を自車の進行方向に向かって進行してくることに全く気が付かないまま、漫然と車両を進行させて、その車体前部を母親及び子に衝突させて本件事故を惹起したもので、その過失の程度は相当大きいというべきである」としました。
他方で、「母親及び子にも、横断歩道がなく、信号機による交通整理も行われていない本件交差点を横断歩行するに際し、ロータリーからバスやタクシーなどの車両が本件交差点に進入してくることが確認可能であったのであるから、本件交差点に進入してくる車両の有無、動静を注視して安全に横断すべき注意義務があったというべきであり、それにもかかわらず、母親及び子は、これを怠り、本件交差点に市道を横断して進入し、本件事故を惹起したもので、本件事故発生について過失があったことを否定できない」として、「これら、乗用車運転手の過失の内容、程度、母親及び子の過失の内容、程度、その他本件事故当時の本件事故現場の状況等、本件に顕れた一切の事情を総合考慮すれば、本件事故における過失相殺率は5%とするのが相当である」と母親及び子の過失を5%と認定しました。
子らの死亡慰謝料算定について、「子は、本件事故のため、わずか2歳で他界せざるを得なかったことや事故態様等、その後の刑事事件及び本件への対応に関する心情等をふまえれば、子及びその両親らに生じた精神的苦痛は極めて甚大というほかはない」としました。
そして、「本件事故が、祖母宅に帰省した際に、かつ、祖母が本件事故現場で母親及び子を降車させた矢先に生じたものであったことをふまえれば、祖母にも、本件事故による固有の精神的苦痛が生じたと認めるのが相当である」として、「慰謝料としては合計2650万円(子2100万円、両親各250万円、祖母50万円)と評価するのが相当である」と認定しました。
【ポイント】
いわゆる「赤い本」で死亡慰謝料は、一家の支柱2800万円、母親・配偶者2500万円、その他2000万円~2500万円とされています。
親族固有の慰謝料を求めてどの範囲の親族まで原告となるか(また親族固有の慰謝料が認定されるか)はケースバイケースになります(身分関係、同居の有無、事故へのかかわり等)。本件は、祖母が降車させた矢先に事故発生しており、祖母も原告になっています。
裁判例では、事故を目撃した兄(4歳)に200万円、非同居の祖父母に各30万円、父母に各300万円・兄2名に各150万円の慰謝料を認めた裁判例などがあります。
なお裁判所の考え方としては、近親者の多くは被害者を相続していること、固有の慰謝料で慰謝料総額にあまりにも差が生じるのは妥当でないことから、結局、慰謝料総額としては前記赤本の慰謝料額前後にとどまることが多いことには留意しておくべきでしょう。