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第二準備書面

平成一〇年(ワ)第七六四号、第一〇〇〇号、第一二八二号事件「らい予防法」違憲国家賠償請求事件
原告  原告番号一ないし四五番    被告 国

一九九九年(平成一一年)一月二九日
右原告ら訴訟代理人  弁護士 徳田靖之・板井 優   外一三五名

熊本地方裁判所 民事第三部 御中

一 はじめに

被告国は、一九〇七年(明治四〇年)の「癩予防に関する件」の制定に始まり、一九九六年の「らい予防法」廃止に至るまで、一貫して強制隔離政策をとり、強制隔離制度を定め、存続させ、原告らを事実上の強制隔離状態下におき、現在に至るまで原告らが社会の中で平穏に生活する権利を奪い続けてきた。被告国によるこれら侵害行為の継続及び原告らの高齢化により原告らが受けた損害はいまなお拡大の一途を辿っている。

すなわち、被告国は、一九〇七年「癩予防に関する件」を制定し、これによりハンセン病患者の強制収容・終身隔離政策を開始した。一九三一年(昭和六年)には隔離対象をすべての患者に拡大して強制隔離の強化によるハンセン病及びハンセン病患者の根絶を企図し「癩予防法(旧法)」を制定した。その後も、被告国は、患者の収容範囲の拡大を図り、また、「無らい県運動」を全国で展開し、民族浄化の名の下に国策として強制隔離と断種・中絶の強要による患者の絶滅政策を徹底していった。被告国は、ハンセン病が感染力の非常に弱い病気であり、仮に感染しても発病率の著しく低い病気であることを知りながら、ハンセン病が不治の病である等といった宣伝をなし、診療・入所等の措置に際し、衆人環視の中で患者の家の消毒を実施し、輸送列車に「らい患者専用列車」と公に表示するなどして、いわゆるハンセン病に対する「恐怖宣伝」を行い、強制収容による強制隔離を実施し続け、これにより社会にハンセン病患者に対する根強い差別意識、偏見を生ぜしめた。

さらに、被告国は、一九四七年(昭和二二年)の日本国憲法施行後においても、一九四八年(昭和二三年)にハンセン病患者に対する優生手術を明文で認める「優生保護法」、そして一九五三年(昭和二八年)に「らい予防法(新法)」を制定し、一九九六年の同法廃止に至るまで強制隔離政策を継続し、隔離制度を存続させた。

これにより、戦前から醸成されたハンセン病患者に対する社会の根強い偏見は、さらに確固たるものとなった。また、同法廃止後も、被告国は、入所者に対する謝罪や実効性ある原状回復、並びに完全に円満に社会復帰できるための経済的、社会的措置をとっておらず、現在に至るまで自らの行為により生み出したハンセン病患者に対する社会の根強い差別と偏見を放置し続けている。

このような政策の継続とこれにより生じたハンセン病患者に対する差別偏見の放置のため、原告のある者は、これら差別と偏見に対する恐怖心のため療養所から出ることができなかった。ある者は、恐怖心を克服しつつ、差別と偏見の中でこれと闘いながら生活しようとしたが、外に出ても社会から「隔離」された状態にあった。差別と偏見のある限り、施設内であろうと、施設外であろうと、「隔離」状態は継続したのである。まさに、原告らは社会の中で平穏に生活する権利を奪われ、また、社会での生活能力を奪われた状態におかれたのである。

二 原告らの損害

原告らが被った損害の概略は、訴状第四「絶対隔離・断種政策下における人権侵害状況」において述べているところであるが、逮捕監禁に類する強制隔離の継続、有無を言わさず引き立てての連行あるいは脅迫的手段による入所の強制、入所に際してのハンセン病罹患・入所の事実の漏洩、断種手術あるいは堕胎の強制、重症者の看護・死亡患者の火葬等様々な園内作業という名の労働の強制、恣意的で不当な懲戒権の行使による懲戒、そして差別偏見を助長する幾多の行為により、原告らは名誉を侵害され、社会とのつながりを切断され、肉体的にも精神的にも、また家庭的、社会的、経済的にも言語に絶する甚大なる被害を受けた。これらはいずれも被告国により九〇年間にわたり継続された誤った強制隔離政策によりもたらされたものであるが、ハンセン病患者に対する強制隔離政策の継続による被害の一端、一側面を示すものにすぎない。被告国のハンセン病患者に対する幾多の人権侵害行為によってもたらされた個々の損害を、それぞれ独立したもの、個別的なものと捉えたのではハンセン病患者に対する強制隔離政策による被害を真に理解したことにはならない。これら多様な損害の一つ一つ、逮捕監禁に類する身体的拘束を受けたこと、ハンセン病罹患・入所の事実を漏洩されたこと、あるいは断種手術・堕胎を強制されたことなど、そのどれをとっても重大かつ明白な人権侵害であり、深刻な被害ではあるが、これらはそれ自体として完結したものではなく、複雑に絡み合ってさらにきわめて深刻な損害を生じさせているのである。

すなわち、原告らは、現在療養所内で生活している者、社会内において生活している者を問わず、右の個々的な損害の全部あるいはいずれか一つを受けることによって社会復帰を妨げられ、社会の中での生活能力及び生活基盤を奪われ、社会の中で差別偏見にさらされ続け、平穏に生活することができない状態の下におかれているのである。療養所内での生活を余儀なくされている者のみならず、現在社会内で生活している者も、被告国により生み出され拡大されたハンセン病患者に対する差別偏見に対してこれと闘いながら生活していかなければならなかったのであり、それ自体が社会の中で平穏に生活する権利を奪われたことによる損害である。原告らの右被害は、まさに原告ら元ハンセン病患者に対する強制隔離政策という継続的かつ統一的な政策によって生み出された複合的被害なのであり、いまなお原告らすべての元ハンセン病患者に共通して継続して発生している損害なのである。

1 包括請求の正当性

原告らは、いわゆる「包括一律請求」をなすものである。包括請求の正当性については、スモン薬害訴訟、水俣病訴訟、カネミ油症訴訟等々の相次ぐ判決において認められている。とりわけ広島スモン判決(広島地判昭五四・二・二二)においては「特に本件スモン事件のごとき類似被害の多発している事案においては、右のごとき請求をなす必要があるのみか、むしろ、このような方法での損害額の算定には、公平で、実体にも即しているなどで、より合理性が認められるものともいえる。」(判例時報九二〇号八二頁)として積極的のこの方式が採用された。

前項に示したように、スモン薬害、水俣病及びカネミ油症における被害と同様、原告ら元ハンセン病患者の受けた損害はきわめて多様かつ複合的であって、これら被害が複雑多岐にわたり、かつ相互に影響を及ぼして社会の中で平穏に生活する原告らの権利を奪い、全人格的な破壊をもたらしており、原告らの受けた被害の総体を「総体」として包括して捉えるのでなければこれを正しく捉えることはできない。原告らは、社会の中で平穏に生活する権利を奪われたことによって日常生活、家庭生活、社会生活ひいては人生にきわめて深刻な影響を受けた。まさにそのすべてが被害であり、その性質上、個別的に財産的損害として構成することになじみにくいものである。

また、その被害も長期間にわたっている。本訴訟で原告らが責任追及の対象としている日本国憲法施行以降でも五〇年以上に及んでいる。このような長期にわたる被害について個別的項目ごとに立証を要求していたのでは迅速な救済に資さないのは明らかである。したがって、本訴訟においても包括請求が認められるべきである

2 一律請求の正当性

原告らは、原告らの受けた被害の共通する部分についてその賠償を求めるものである。原告らは、被告国のハンセン病患者に対する強制隔離政策により各人各様の様々な被害を受け続けてきたが、本訴訟においてはそれらのうち原告らに共通している社会内において平穏に生活する権利を奪われたことによって生じた、健康の破壊、家族関係・家族生活の破壊、社会経済的諸活動の不能による損害について賠償を求めるものである。また、これにより原告らの受けた被害ははかりしれないほど大きく、原告ら各人において差は全くないことから一律の金額を請求するものである。その金額は一億円を下ることはない。

3 このように、原告らが被った損害は「総体」として包括的に捉えられるべきであり、かつ原告らの損害は共通性、等質性を持っているので、包括一律的な請求をすることが許されるべきである。

以上

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