遺産分割事件の傾向と対策
- 古賀克重法律事務所 HOME >
- 遺言・相続問題 >
- 遺産分割事件の傾向と対策
遺産分割事件の件数
全国の家庭裁判所の遺産分割事件の件数は、1996年(平成8年)に初めて1万件を突破しました。2014年(平成16年)以降は1万2000件を超えています。
昭和50年に比べると約3倍、昭和60年に比べると約2倍に達しています。
そして遺産分割事件の平均審理期間は11.6か月になっており、民事の第1審訴訟の約1.3倍になっています。
ただそれでも平均審理期間はスピードアップしており、1993年(平成5年)の18.7か月に比べるとかなり短くなっています。
増加の背景
事件数の増加の背景には高齢化社会の到来があります。
平成25年の65歳以上の高齢者人口は、過去最高の3190万人になっています。
今後も高齢者人口は増加し続けることが予想されており、遺産分割事件はますます増えていくと思われます。
そのほかにも家族の共同体としての役割の低下、経済不況の長期化に伴う家族間の財産に対する関心の高まりなども、遺産分割事件の増加を後押ししているといえそうです。
紛争の複雑化
法律相談を受けていてさらに感じるのは紛争の複雑化という点です。
現代社会はネット含めて法律情報にあふれています。そのため「生前贈与」「遺言」を早めに検討する方も増えています。
ところが法律を聞きかじりで処理するため、かえって家族間の紛争を拡大するケースもまま見受けられます。
例えば、遺留分を全く考慮しない遺言書を作成したり、親が介護を受けており意思能力に問題があるにもかかわらず無理やり遺言書を作成したりするケースです。
調停前の事前準備
遺産分割調停を申し立てた場合、もしくは申し立てられた場合、十分に事前準備することが必要です。
戸籍謄本・除籍謄本、登記簿謄本、遺言書の有無、相続人間で主張が予定される論点などを整理していきます。
つまり、遺産分割の前提である「相続人の範囲」、「遺産の範囲」、「遺産の評価」、「遺言書及び遺産分割協議書の有無」について準備するわけです。
遺産分割調停での論点[相続人の範囲]
遺産分割事件ではまず相続人の範囲を確定する必要があります。相続人というと明確なようですが、調停にあたっては被相続人が出生してから死亡するまでの戸籍謄本・除斥謄本が必要になります。ケースによっては数十通の戸籍謄本を集める必要も出てきます。
私の経験した事件でも相続人が30名以上に達しているケースがありました。戸籍謄本を集めるだけでも大変ですが、手紙を出して相続分放棄の折衝なども行い、無事遺産分割を終了させることができました。
また場合によっては相続人や被相続人に外国籍がいて、そもそも適用される法律が日本法なのか外国法なのかが争われることもあります。基本的には「相続は被相続人の本国法による」とされていますので、被相続人が日本人であれば日本の民法など日本の法律が適用されることになります。
遺産分割調停での論点[遺産の範囲]
被相続人が相続開始時に有していた財産的権利義務(遺産)は、被相続人の一身に専属するものを除いてすべて相続の対象となります。相続の開始により相続人に承継されるわけです(包括承継。民法896条)。
ところが、遺産のすべてが相続の対象ではありません。逆に遺産ではないが相続の対象か争いになるものも出てきます。
そのため「遺産の範囲」を特定することが遺産分割調停でも大きな争点になるわけです。
弁護士の役割
このように増加し、かつ、複雑化する遺産分割事件について弁護士の役割は増大しています。
まず相続が発生する前に、相続人間の紛争を見越した上で的確なアドバイスをする必要があります。
次に相続が発生した後に、適切な手続きを通じて、依頼者の利益を実現していくことが求められているといえます。