婚姻費用の分担
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婚姻費用分担請求とは
民法760条は、「夫婦は、その資産、収入その他一切の事情を考慮して、婚姻から生ずる費用を分担する。」と定めています。
同条が、夫婦に婚姻費用分担義務を課したものと考えられています。
したがって、婚姻から生ずる費用(婚姻費用)として、離婚が成立するまでは、夫婦及び未成熟の子を含む婚姻共同生活を営むために必要な生活費の分担を請求できることとされています。
婚姻費用の額の基準は
婚姻費用分担の基準はあるのでしょうか。
家庭裁判所が早見表を公表していますので確認しましょう。
東京及び大阪の家庭裁判所の裁判官が、「養育費、婚姻費用の算定に関する実証的研究」をテーマに司法研究が行われ、その研究報告を公表しているものです。家庭裁判所における判断の基本になります。
子の人数(1~3人)と年齢(「0~14歳」と「15歳以上」)に応じて、表1から表9に分かれています。
どの表も、縦軸は、婚姻費用又は養育費を支払う者(義務者)の年収になります。横軸は、支払を受ける者の年収になります。
令和元年12月23日に改訂版が公表され、金額が上がっています。
算定表は、あくまで標準的な婚姻費用及び養育費を簡易迅速に算定することを目的としています。最終的な金額は、様々な事情を考慮して定めることになります。
しかしながら、「様々な事情」といっても、通常の範囲内のものは標準化するにあたって算定表の金額の幅の中で既に考慮されています。
したがって、算定表の幅を超えるのは、算定表によることが著しく不公平となるような特別の事情がある場合に限られると考えられれています。逆にいうと、通常は、算定表を超える請求は、認められないことが大半であるということになるでしょう。
婚姻費用を決めるには
婚姻費用を具体的にどのように分担するかは、まずは夫婦間の合意により決めることになります。
合意は、口頭でも書面を取り交わしても構いません。様式は問いません。
しかしながら後々の紛争を回避するためには、何らかの書面を残した方が良いでしょう。
別居期間が相当長期に渡ると予想される場合、つまり、婚姻費用分担の支払いが長期間続きそうな場合には、公正証書まで作成しておくことも検討の余地があるでしょう。
なお以上は、養育費の場合も同様になります。
婚姻費用分担調停とは
このように夫婦間で婚姻費用の合意ができれば良いですが、合意ができない時はどのような手続きが必要でしょうか。
当事者は、家庭裁判所に対して、婚姻費用分担の調停を申し立てることになります(家事事件手続法255条1項)。
裁判所に提出する調停申立書には、「当事者及び法定代理人」「申立ての趣旨及び理由」を記載しなければなりません(同条2項1号2号)。
申立ての趣旨は、「相手方は、申立人に対し、令和□年□月から離婚又は別居解消に至るまで、毎月末日限り金□万円を支払え。」等と記載します。
家庭裁判所は、調停申立書の写しを相手方に送付することになっています(家事256条1項)。複写式になっている定型書式を使用しない場合には、申立書の写しも提出します。
婚姻費用分担調停は、裁判官や2名の調停委員が立ち会います。
裁判官や調停委員が当事者に対して今後の手続きの説明を行った上、総収入や非消費支出、恒常的特別経費などを聞き取って、前述の算定表に当てはめて婚姻費用分担を算定しつつ、当事者の要望をすり合わせていくことになるのです。
調停の中で当事者が合意できれば、調停成立となります。
家庭裁判所は取り決めた内容を調停調書にまとめます。
調停が不調になった時は
婚姻費用分担調停が成立しない場合は、新たな申立てをしなくても、自動的に審判に移行します。
審判とは、家庭裁判所が婚姻費用分担額を自動的に形成決定して、その給付を命ずる裁判になります。
別居や通帳持ち出しなど夫婦間の個別事情は額に影響しますか
法律相談を受けていてよく聞かれるのは、「妻が勝手に荷物をまとめて出ていったのに支払う必要があるのか」「夫が不貞しているので増額してほしい」「学資保険を支払っているのでひいてほしい」、「妻が別居の時に預貯金を持ち出しているので払いたくない」といった個別事情を反映して欲しいという要望です。
結論からいいますと個別事情は影響しないと考えましょう。
例えば、別居の理由や婚姻関係破綻の原因は、離婚に伴う慰謝料で考慮すべきであって、婚姻費用の分担では考慮しないという審判例があります。
また当事者が財産を持ち出したことは、離婚に伴う財産分与の要素として考慮されるので、婚姻費用分担義務の算定額には影響しないという審判例があります。
婚姻費用の変更は可能ですか
いったん決めた婚姻費用は、将来変更できないものなのでしょうか。
分担すべき婚姻費用額を取り決めたとしても、別居が長期間に続くうちに、額が双方もしくは片方の生活実態に合わなくなることもありえます。
例えば、夫が会社から解雇された、夫が転職して給料が下がった、逆に夫の給料が上がったなどが考えられます。
民法880条は、「協議又は審判があった後事情に変更を生じたとき」という要件を定めているだけです。この点に関しては、家庭裁判所等の審判例は様々に分かれています。審判例では、非常に緩やかに変更を認めるものから、予見できなかった事情がある場合に限定して変更を認めるものまで、かなりその判断に幅が存していることに注意を要します。