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交通事故 裁判例・解説

交通事故 裁判例・解説- 休業損害 -

大阪地裁 令和3年9月3日判決

7000万円超の収入ある2社代表取締役の基礎収入を2000万円と認定して休業損害・後遺障害逸失利益を算定した

解説

【事案の概要】

国道を走行中、右方の路外駐車場から進入してきた車両に衝突され、腰部打撲、右大腿部挫傷、頚椎捻挫の傷害を負い、10か月通院して、腰から右臀部痛について自賠責14級9号認定された事案です。
被害者(原告男性)は、既払金195万円を控除し約5000万円の支払いを求めて訴えを提起した事案です。

【裁判所の判断】

大阪地裁は、原告の休業損害及び後遺障害逸失利益の基礎収入を2000万円としつつ、休業期間としては、半日のうち4分の3を通院のために休業したとし、逸失利益については5%4年間、過失相殺3割として、約445万円の支払いを被告に対して命じました(自保ジャーナル2109号70頁、確定)。

大阪地裁はまず基礎収入について以下の通り判断しました。
「原告の事故前年の給与収入は、X社5520万円、B社1728万円の合計7248万円であるところ、原告は両社の役員であるから、上記収入には労働対価部分だけでなく、利益配当部分も含まれているのであり、休業損害を算定するに当たり、労働対価部分を基礎収入とすることになる。」
その上で、各会社が原告の特殊な知識・技能に依存していることが大きいと認めつつも、多数の従業員が事業推進に寄与しているし、原告アイデアによる特許等の知的財産を利用して収益を上げていることからすると、「原告は、労働対価部分より多くの利益配当部分を得ていると考えられる」と判断しました。

休業損害の休業期間については、原告が週7日のうち3日程度出勤していたこと、症状固定日までの間、散発的に通院のために半日の休業を取得し、その合計が28・5日であること、通院スケジュールは自身の希望・都合によることを考慮して、通院には、移動時間・待ち時間・施術時間を含めて3時間程度を要したものと認め、半日を4時間をみれば、半日のうち4分の3を通院のために休業したものと認定したものです。

【ポイント】

会社役員の報酬については、労務提供の対価部分は休業損害として認容されますが、利益配当の実質を持つ部分については認められません。

役員報酬中の労務対価部分の判断は、個別事情に基づく総合判断になります。本件は比較的従業員の多い会社における事例として参考になるでしょう。

なお、後遺症逸失利益の喪失期間について、4年とやや短め(むちうちだと14級5年程度が多い)なのは、症状及び役員として実質的には逸失利益が発生していないという側面を考慮したものと思われます。

東京地裁 平成27年11月25日判決

歯科開業医の休業損害を全日休業の7日間100%、短時間診療の2日間50%、1時間短縮営業の50日間15%で認めた

解説男子開業医のXが乗用車を運転中、追突され、頸部捻挫、右肩関節捻挫、腰部捻挫等の傷害を負い、68日通院したケースです。裁判所は、歯科開業医の休業損害として、全日休業の7日間100%、短時間診療の2日間50%、1時間短縮営業の50日間を15%休業として認定するなど、他の損害も含めて345万円の支払いを認容したものです。個人営業の休業損害は認定の難しい分野です。特に「1人営業」の経営者などの場合、極めて不透明な請求をすることも多く、紛争になりがちです。この点、開業医という比較的経営実態が明らかなケースについて、被害者の実際の経営状況に応じて休業損害を認定した裁判例であり、参考になるでしょう。

同種裁判例として、頸髄損傷等から3級3号後遺障害を残す52歳男子歯科開業医の休業損害について、事故前所得に固定経費を加算した日額8万強を基礎収入として症状固定まで339日の休業損害を認めた東京地裁判決や、右肩関節拘縮による可動域制限から10級10号後遺障害を残す56歳男子歯科開業医の休業損害につき、歯科医院の営業は継続していて、その業務内容から事故前58か月間の平均収入の60%を基礎収入に、症状固定までの休業損害を認めた大阪地裁判決などがあります。

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