九州・山口医療問題研究会第36回総会を開催、始動する医療事故調査制度の問題点は?
目次
◆ 九州・山口医療問題研究会とは
九州山口医療問題研究会の総会が2015年7月18日、福岡市内で開催されました。
九州・山口医療問題研究会とは、医療事故被害の救済と再発防止や医療制度改善を目的として結成された団体です。
各県弁護団を束ねる研究会ですが、福岡弁護団は150名を超える弁護士が所属しています。
また弁護士だけでなく、患者に寄り添った医療を実現する志に共感した医師・薬剤師などの医療従事者も多数参加しています。
◆ 第36回総会が開催
1980年に結成された団体ですから今年で実に36年目。
私も1995年に弁護士登録と同時に加入し21年間かかわっており、現在は福岡弁護団の幹事を務めています。
今年の総会は36回目になるわけですが、鹿児島・熊本など各県の所属弁護士も出席して開催されました。
各県の実情について意見交換したほか、今年10月1日に開始する医療事故調査制度についても学習しました。
◆ 医療事故調査制度と問題点は
医療事故が発生した医療機関が院内調査を行い、その調査結果を第三者組織「医療事故調査・支援センター」に収集させることによって、再発防止につなげるための調査の仕組みが、医療法に位置づけられました。
この制度が「医療事故調査制度」です。
対象となる医療事故とは、医療機関に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であって、当該医療機関の管理者がその死亡又は死産を予期しなかったものをいいます。
つまり、「医療起因性」と「予期しなかった死亡」という要件があるわけです。
後者の「予期しない死亡」には3つの場合が該当しないとされています。
予期しない死亡
以下のいずれにも該当しない場合
1 当該死亡が予期されていることを説明していた
2 当該死亡が予期されていることを診療録等に記載していた
3 管理者が、(医療従事者からの事情の聴取を行い)当該死亡を予期していたと認めたもの
問題点の1つとして、この要件の運用如何によっては「医療事故」からは外されて調査の対象に含まれない可能性が指摘できます。
また、医療事故調査の方法としては、省令において、診療録その他の診療に関する記録の確認、当該医療従事者のヒアリング、その他の関係者からのヒアリング、解剖又は死亡時画像診断の実施、医薬品、医療機器、設備等の確認、血液・尿等の検査という事項について、必要な範囲で選択するとされました。
この点、遺族からのヒアリングは「その他関係者からのヒアリング」に該当すると解釈されますが、そもそも医療事故の調査において、遺族からのヒアリングが義務として位置づけされていないこと自体大きな問題点といえるでしょう。
さらに、通知において、再発防止策は、「可能な限り調査の中で検討することが望ましいが、必ずしも再発防止策が得られるとは限らないことに留意すること」とされました。このように、再発防止策の検討さえも義務にはなっていないのです。
そのほか、遺族への結果説明の方法について、通知は、「口頭又は書面若しくはその双方の適切な方法により行う」とされ、院内事故調査報告書の交付は義務になっていません。
このように、医療事故調査制度は具体的な制度設計の段階で患者側からすると、「骨抜き」になりかねない内容が盛り込まれています。
実際に医療事故調が動き出した場合、患者側弁護士としては医療機関に対するアンケートを実施するなど、この制度の運用状況を監視していく必要があるでしょう。
そして患者側弁護士としては遺族らに対する積極的な支援が求められていると改めて感じた勉強会になりました。
◆ 日本病院会のシンポジウムも開催
なお折しもこの日、全国2400病院が加盟する日本病院会による医療事故調のシンポジウムも開催されていました。
その中で、名古屋大学病院副院長の長尾能雅教授は、医療事故調査の調査について、「事実関係は明確に、調査結果に対する評価は丁寧にする必要がある」と述べています。
まさにこの指摘のように、予期せぬ死亡事故が発生した場合に医療機関が責任追及を恐れて後ろ向きの調査に終始するのではなく、真摯に精度の高い事実認定と分析を行ってこそ、再発防止が実現できると思います。
シンポジウムには同会に加盟する病院の院長や医療安全担当者ら計約440人が参加した。
名古屋大病院で「医療の質・安全管理部」の部長を務める長尾教授は、調査の進め方について講演。「事実関係をできるだけ正確に把握することで、精度の高い分析ができ、質の高い再発防止策が立てられる」と述べた。(7月18日付け中日新聞)