薬害肝炎全国原告団弁護団が塩崎厚労大臣と大臣協議、耐性HCVの治療研究推進を
目次
◆ 大臣協議とは
薬害肝炎全国原告団・弁護団と厚生労働大臣との協議会(大臣協議)が2015年7月28日、厚生労働省内会議室にて開催されました。
大臣協議とは、薬害肝炎訴訟が解決する際に締結した基本合意書に基き、様々な積み残しの課題について、年に1回協議するもの。
2015年度の大臣協議には全国から125名の原告弁護団が参加しました。
協議分野は、「恒久対策」、「再発防止」、「被害救済」の3項目です。
現在の塩崎恭久厚生労働大臣は第一次安倍内閣で官房長官職にありました。全面解決前の2007年6月25日、山口さんは総理官邸で面談している「因縁」があります。当時のことを指摘する山口代表のあいさつから開始しました。
原告団の代表と弁護団の代表が仲介役の萩生田議員とともに総理官邸に入り、塩崎恭久官房長官と面談することができた。
しかし官邸から出てきた山口の顔は真っ青であった。山口はデモに参加してくれた500人の前で『総理には会えませんでした。塩崎官房長官が、信じて下さいと繰り返すだけでした』と何度も謝った。その映像が夕方のニュースで一斉に報じられた。
安倍総理は夜の記者会見で『従来の肝炎対策の延長線上ではない対策を講じるように、厚生労働省に指示した』とコメントした。官邸要請行動は確実に政府・与党を動かすプレッシャーになっていたのである(薬害肝炎裁判史・288頁)
山口代表の挨拶に続いて、塩崎厚労大臣は、「この場にいない患者・感染者の一人一人のお気持ちを大事にしながら解決していくことが大事だ。今年度予算事業でインターフェロンフリーを医療費助成にした。重症化予防の推進に取り組んでいる。今後も肝炎対策基本指針に基づいて推進に取り組んでいきたい」と挨拶しました。
◆ 恒久対策~耐性HCVの治療研究推進を
2人の挨拶に続いて早速協議が開始しました。
まず、恒久対策の分野では2つのテーマについて要求しました。
C型肝炎を巡ってはハーボニーなど新薬が続々と出てきています。新しい治療方法を速やかに治療費助成するよう求めました。
一方その陰で薬剤耐性が出ている患者がいるので治療体制の整備も合わせて求める要求です。
塩崎厚労大臣は次のとおり答弁しました。
「新たな治療薬の承認については有効性・安全性につき必要な資料をもとに速やかに審査を進めていかないといけない。C型肝炎については特に速やかな審査が望ましいと考えている。その後も速やかに保険適用し医療費助成の対象となるように手続きを進めていく」
「薬剤耐性については、インターフェロンフリーでも出ている。厚労省としても薬剤耐性がでてしまった患者に対してできる限りきめ細やかな対応が必要と思っている。研究事業において配慮した取組みを行いたい。また専門家の意見を聞きながら検討を進めるということで薬剤耐性に対応していきたい。このようにできる限りきめ細かい対応をとりたいと思っているので今しばらくお待ちいただけたらと思う」
続いて薬害肝炎九州原告団の長崎県の女性が意見陳述しました。
私は、昭和63年、娘を出産する際に出血し、フィブリノゲン製剤を投与され、そのためにC型肝炎に感染しました。
このとき劇症肝炎を発症して急性腎不全となり、7回の腎臓透析を受けました。5か月後にようやく退院できましたが、点滴のために頻繁に通院しなければならず、仕事を辞めざるを得ませんでした。通院は2年半も続きました。
しかし私のC型肝炎は慢性化しており、苦痛はこれで終わりではありませんでした。
長崎の原告さんは、平成5年、平成13年、平成22年と3回のインターフェロン治療に臨みましたがウイルス排除できません。
そして平成23年からは4回目の治療に臨みます。
しかし治療終了後1か月後の検査で、はやくもウイルスが検出され、またも治療は奏功しませんでした。治療中、副作用で辛いとき何度も、もう耐えられない、止めたいと思っても治っている自分をイメージして頑張ってきたのに・・主治医の声を聴きながら、涙を流しました。ずっと支えてくれた家族にたった一言「治らなかった」と伝えるのが本当に辛かったし、申し訳ない気持ちになりました。さらに追い打ちを掛けるように、この4回目の治療の後、私に耐性ができたと聞かされました・・
治っていく人を羨ましく思い、私は一人とり残されていくさみしさで胸が押しつぶされそうです。
次々と新薬が出て完治していく人がいる一方で、新薬により耐性が生じ治療を受けることもできず肝硬変、肝癌へと病気が進行していく不安を抱えている、私のような人がいます。治る人が増えると、その後治らなかった人への薬は作ってもらえなくなるのかと不安です。
治らなかった人が治るまで、ずっと責任を持ってください。
塩崎大臣は、「高校の同級生にもC型肝炎に感染した医師がいる。彼はインターフェロン治療を繰り返して克服することができた。中には慢性から肝硬変・肝がんに進む方もおられる。重症化予防を図ることが行われなければならない。事業のさらなる充実を検討しないといけないと思っている」と回答しました。
さらに「肝硬変・肝がん患者に対する医療費助成」については、「肝硬変・肝がんへの一般的な医療費助成については他の疾病との公平という配慮も必要になるため慎重な検討が求められている。議員連盟でもその中で何ができるのかを行って頂いている。厚労省としても議員連盟の動きと連携して何ができるか考えていきたい」と回答しました。
◆ 個別救済~国の責任でカルテ調査を
個別救済分野では、救済期限が迫っているにもかかわらず放置されている患者カルテが問題を取り上げました。
そして、カルテ調査費用を国が負担すべきことを求めました。
例えば滋賀医大では延べ350人の弁護士がおよそ350時間を費やして8万件の電子データを調査しました。
また関東の病院では137人の弁護士が合計367時間を費やして7年分のマイクロフィルムのカルテを調査しました。
以上の調査は弁護団の手弁当で実施したもの。医療機関自体が調査するには膨大な労力が必要となることが予想されます。そこでカルテ調査の費用を負担して国の責任で実施するように求めるものです。
塩崎大臣は次のように回答しました。
「従来からフィブリノゲン投与者の確認を行ってきた。25年10月、診療録の効率的な調査を提供するなどしてきた。今年度の動きとしては、弁護団の要望をふまえて、訪問調査を継続するとともにアンケート調査を行うことにした。今後も投与を受けた方の確認を進めていきたい」
「100本以上投与している医療機関が111施設あった。訪問調査などの働きかけを強めていく。その中でできる限りの救済を図っていきたいと思っている」
「これまでの取組はそれなりの効果が出ていると思う。今後は優先的に訪問、外部委託を含めた効率的な調査の事例収集と情報提供を通じ、提訴期限平成30年1月を視野に入れて、医療機関への対応をうながしていきたい」
これに対して、薬害肝炎大阪原告団の武田さんが、「薬害肝炎は国に責任がある以上、調査費用を国が出すのは当然ではないですか」と迫りました。
塩崎大臣は、「気持ちはよくわかるところであるが、医療機関の中には自主的に調査をやってくれているところもある。自主的な医療機関とのバランスも考えないといけない。まずは効率的なやり方を周知徹底していきたいと思っている。来年度111施設を重点的に調査をしていきたい」と重ねて答弁しました。
最後に、薬害肝炎全国弁護団の鈴木代表が、「医療機関は熱意ある厚労省のアプローチでは難しいのではないかという視点である。費用を何らかの形で捻出する時期ではないか。全員一律救済のためには必要だ。国として製薬企業と協議するということも開始して頂けないか」と述べてこの論点についての協議を終えました。
◆ 再発防止~検証委員会の最終提言の実現を
薬害の再発防止部分では、「第三者組織の実現」「検証委員会の最終提言の実現」「薬害研究資料館」について回答を迫りました。
九州原告団代表の小林さんから、「二度と薬害を発生させないということで検証委員会の最終提言が出されました。田村大臣が職員に周知徹底することを約束したが、具体的にどのような作業をしたのかご説明ください」と求めました。
塩崎大臣は、「昨年の薬害根絶デーの際に全職員に周知徹底しました。また、4月入所の新人職員に薬害根絶の碑を見学させ、薬害問題の重さを徹底した。8月には全職員に対する周知を今年も実施したいと思っている。そして根絶の碑が厚生労働省の中庭にあるある以上、職員に対する周知徹底は今後もずっと行っていきたいと考えている」と述べました。
その他、「議員連盟とも連携しながら厚労省としても対応を最大限の汗をかきたいと思っている」「資料館についても、薬害をどう二度と起こさない重要性を次の世代につなげていくことが大事である」などと回答しました。
田村厚労大臣から塩崎厚労大臣に変更して初めての大臣協議でしたが、官僚のペーパーを読む場面が多く、前向きな回答や大臣としての自らの言葉は余りありませんでした。
薬害肝炎の積み残しの課題について、今後も粘り強く交渉していくことが求められる大臣協議でした。