100歳の患者に食道ステント留置術を実施し死亡した場合、ステント留置術の適応が認められるとして請求を棄却した裁判例
100歳の患者に対して、食道の狭窄を伴う食道癌による食事の通過障害を改善するため、食道ステント留置術を行いました。
ステント留置後、ステント留置部付近の食道壁から出血し死亡したケースにおいて、ステント留置術の適応が認められるでしょうか。
大阪地裁平成26年2月3日判決(判例時報2236号128頁)は、手術適応を認め、また、医師に説明義務違反も認められないとして、原告(相続人)の損害賠償請求を棄却しました。
当時の消化器内視鏡ガイドラインが、嚥下障害を伴った切除不能の食道癌による狭窄がある場合に「食道ステント留置術の適応がある」としていること、例外的に「適応外とされている症例」及び「適応について慎重に判断すべき症例」としてあげられている症例にいずれにも該当しないこと、さらにガイドライン及び医学文献において年齢的な基準は特段しめされていないことから、判決は手術適応を認めたものです。
いわゆる診療ガイドラインは様々なレベルのものがありますが、医療水準を基礎づける一つの重要な資料であることは間違いありません。
この点、診療ガイドラインと異なる診療行為を行った場合に、注意義務違反が争われることは多々ありますが、逆に、本件にように診療ガイドラインに沿った治療を行ったケースで注意義務違反を争うことは余りないかもしれません。
事案をさらに詳細に見てみると、患者は余命は長くとも数ヶ月の末期癌であり、抗がん剤治療等の積極的な治療が望めない状況でした。患者自身が経口摂取への意欲が強かったため手術に至ったようです。7月4日に手術は合併症もなく終了し、術後の食事の通りには問題なく、患者が早期退院を希望したため7月11日に退院して自宅で生活し、7月30日に再び緊急入院したという経過をたどっています。
100歳という超高齢で余命数月の段階で食道ステント留置術にふみきる医療機関は多くないのではないかと推察されますし、家族からするとこんなはずではなかったという思いがどうしてもぬぐえなかったのかもしれません。ただ私がこの事案の相談を受けたとしたら、医療調査段階で、「損害賠償請求は相当に困難と考えらえれるので訴訟はお勧めしない」とアドバイスしていたと思います。
なお原告代理人弁護士は、医療過誤事件を専門分野として取り扱っているわけではなく、患者側弁護士らの研究会・弁護団に加入している方ではないようです。
その後原告は高等裁判所に控訴しましたが、控訴棄却で確定しています。
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