ノバルティス元社員逮捕は氷山の一角、求められる再発防止
ノバルティスファーマの論文不正問題がついに元社員白橋伸雄氏の逮捕へと発展しました。
スイス大手製薬会社のノバルティスファーマが販売する高血圧治療薬「ディオバン」。
ディオバンとは、一般名はバルサルタン錠といい、「複合心血管イベント発症の危険率が45%減少する」などと大々的に宣伝し、年間売上げ1000億円を越えるに至った薬剤です。
ところが由井芳樹医師(京都大学医学部附属病院)が2012年4月、イギリスの医学雑誌「ランセット」に疑問を呈する論文を発表します。
その後も疑惑は広がり、ノバルティスファーマ株式会社の社員が、大学の論文に「大阪市立大学講師」という肩書きで記載していたことや、データの操作に関与してことが判明するに至りました。
そこで薬害オンブズパースン会議が2013年11月、厚生労働省も2014年1月に刑事告発していたものです。
白橋容疑者は京都府立大学、慈恵医大、滋賀医大、千葉大、名古屋大という5つの大学において、データ解析等に関与していました。
その上でノバルティスファーマは2006年以降500種類もの広告にこの5大学の論文を引用し、販売拡大のツールとして利用していました。
このうち被疑事実は、2010年から2011年にかけて、元社員が解析データを改ざんして臨床研究を行う大学に提供し、専門誌に薬効に関する虚偽情報を掲載させたというものになります。
厚労省はノバルティスファーマも刑事告発しており、東京地検は両罰規定に基づいてノバルティスファーマの立件も検討していると思われます。
医薬品に関する研究論文の不正について刑事事件に発展したのは初めて。
しかしながら薬害肝炎訴訟においても、血液製剤の承認審査において、余りに不適切なデータが使用されているのではないかとして、原告側は臨床試験の問題点を追及しました。
つまり広く日本の臨床研究における信用性に対する疑義は、新しくて古い問題といえるわけです。
ノバルティスファーマは高血圧治療薬だけでなく、慢性骨髄性白血病治療薬「タシグナ」についても不正が指摘されています。
先日も副作用の可能性ある症例1万件について報告漏れがあったことが判明したばかり。
ノバルティス以外にも、協和発酵キリンのネスプ注射液に関する不適切関与や武田薬品工業も高血圧症治療薬・プロプレスの広告で実際のデータとは異なる資料を利用したとして社長が謝罪に追い込まれています。
このようにノバルティスファーマの問題は氷山の一角。
東京地検特捜部には可能な限り捜査して真相究明に近づいて欲しいと期待する一方において、この問題は、元社員一人の問題として終わらせるのではなく、ノバルティスファーマ、ひいては日本の製薬会社と医療界の癒着の問題として再発防止のために何が必要か、法整備も含めて議論していく必要があるでしょう。
論文執筆者「気付かなかった」
問題とされた論文を執筆した京都府立医科大学の沢田尚久元講師はNHKの取材に対し、「白橋元社員が解析したデータを受け取り内容を疑うことなくそのまま論文の執筆に使っていた。自分は解析の素人なので解析には関わっていないしデータに不審な点があったことにも気付かなかった」などと話しています。
厚生労働省「推移見守る」
ノバルティスの元社員が逮捕されたことについて、ことし1月、東京地検特捜部に告発した厚生労働省は「捜査中であり、その推移を見守りたい。ノバルティスについては、この件以外にも副作用の報告漏れなどの問題を抱えていると認識しており、製薬会社として国民の信頼を取り戻せるよう取り組んでもらいたい」というコメントを出しました。
(6月11日・NHK)
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