古賀克重法律事務所ブログ

福岡県弁護士会所属弁護士 古賀克重(こが かつしげ)の活動ブログです。

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少年法改正のポイントと評価は?

改正少年法が4月11日、参議院を通過して賛成多数で成立しました(投票総数234、賛成219、反対15)。

改正のポイントは「厳罰化」と「国選付添人・検察関与事件の拡大」の2点です。

法務省による法案の提出理由は、「少年審判手続のより一層の適正化を図るため、家庭裁判所の裁量による国選付添人制度及び検察官関与制度の対象事件の範囲を拡大するほか、少年に対する刑事事件における科刑の適正化を図るため、少年に対する不定期刑の長期と短期の上限の引上げ等の措置を講ずる必要がある」とされています。

◆ 無期刑の上限を20年に

まず無期刑の上限を15年から20年に引き上げます。
改正前の少年法が下記のように定めていたものを改正するものです。

少年法51条2項(改正前)
罪を犯すとき18歳に満たない者に対しては、無期刑をもって処断すべきときであっても、有期の懲役又は禁固を科することができる。この場合において、その刑は、10年以上15年以下において言い渡す。少年法52条1項(改正後)
罪を犯すとき18歳に満たない者に対しては、無期刑をもって処断すべきときであっても、有期の懲役又は禁固を科することができる。この場合において、その刑は、10年以上20年以下において言い渡す。

犯罪時に18歳未満の少年だった場合、いわゆる無期懲役が相当の場合であっても有期の懲役(禁固)を科することができるという規定です。
可塑性のある少年の特殊性に鑑みて、無期刑を緩和するものです。

各国でも同様の規定があり、例えば、ドイツでは18歳~20歳は「10年以上15年」に、14歳~17歳は「10年」に緩和してます。フランスも、「20年以下」に緩和されています。

今回の改正は、無期刑緩和の上限15年を20年に引き上げて、量刑に幅を持たせるというものになります。

ちなみに平成12年少年法改正において、「無期刑で処断すべきときは必ず10年以上15年以下の有期刑を宣告しなければならない」とされていたものを、「科することができる」というように裁判所の裁量による緩和とされていましたが、さらに今回の改正は刑期においても重罰化したものといえます。

◆ 不定期刑の上限等の引き上げ

次に不定期刑の短期の上限について5年から10年に、長期の上限について10年から15年に引き上げます。

少年法52条1項(改正前)
少年に対して長期3年以上の有期の懲役又は禁固をもって処断すべきときは、その刑の範囲内において、長期を短期を定めてこれを言い渡す。但し、短期が5年を越える刑をもって処断すべきときは、短期を5年に短縮する。少年法52条2項(改正前)
前項の規定によって言い渡すべき刑については、短期は5年、長期は10年を越えることはできない。

その他にも、少年に対して不定期刑を科す事件の範囲が、「長期3年以上の有期の懲役又は禁固をもって処断すべきとき」から「有期の懲役又は禁固をもって処断すべきとき」に改めるとともに、短期は、長期の2分の1(長期が10年を下回るときは、長期から5年を減じた期間)の範囲を下回ることができないこととされました。

さらに、不定期刑の短期についても、少年の改善更生の可能性その他の事情を考慮し特に必要があるときは、処断すべき刑の短期の2分の1及び長期の2分の1を下回らない範囲内において定めることができるともされました。

少年の処分の特徴の一つに「不定期刑」というものがあります。成人には定期刑のみが科されます。
少年の人格が発展途上で可塑性に富み教育による改善更生が期待されることから、刑期に幅を認め、処遇に弾力性を持たせることにした規定です。

今回の改正は不定期刑の短期・長期の上限を引き上げて処遇に幅を持たせるものと言えます。

なお不定期刑の適用は、「判決の言渡時」が基準になります。前述の無期刑が「犯罪時」を基準にすることと大きな違いあります。

つまり犯罪時に18歳や19歳だったとしても、少年審判・裁判が長期化して、判決の言渡時に20歳になっていれば、そもそも不定期刑は適用されずに、成人と同様に定期刑が言い渡されるわけです。

この点、今回の改正における国会審議においても触れられましたが、政府答弁としては、「実際に成人の共犯と処遇の差があって問題になったケースに対応するもの」と回答しています。

◆ 検察官関与事件の拡大

「検察官関与事件」は、長期三年以上の有期懲役または禁錮になります。
具体的には窃盗、詐欺、恐喝、傷害、それからわいせつ等の事件まで含むことになります。
ちなみに法改正前までは、強盗、傷害致死、殺人、強盗致傷、強盗致死、強盗強姦、強姦、放火といった非常に重大な犯罪にしか適用がなかったものです。

具体的な数としては、少年の終局処分でいうと、約8割をカバーする範囲について検察官が関与できることになります。

もっとも検察官を関与させるかは裁判所の裁量ですし、現在の家裁実務を前提にすると、いきなり検察官関与事件が急増することにはならないでしょう。

◆ 国選付添人事件の拡大

今回の改正については弁護士会でも評価が分かれました。
仙台弁護士会のように反対の会長声明を出した会もありますが、大半の弁護士会では反対の声明までは出していません。

その背景は、いわゆる厳罰化だけではなく、国選付添人の対象も拡大されることになったからです。前記検察関与事件の拡大と同様にかなりの範囲の事件が対象になります。

「故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪」及び「前号に掲げるもののほか、死刑又は無期若しくは短期2年以上の懲役若しくは禁固に当たる罪」(改正前)

「死刑又は無期若しくは長期3年を越える懲役若しくは禁固に当たる罪」(改正後)

国会審議では、参考人の元調査官から、付添人が少年の罪を軽くしようとして被害者との示談を急ぐことがかえって少年が罪と向き合う妨げになるという指摘もありました。

この参考人の指摘は古典的な論点なのですが、昨今の弁護士急増を受けた現代的な側面も含まれていて個人的には興味深く感じました。

12年前に福岡県弁護士会が全件付添人を提唱して全国に運動を広げた際、確かに付添人弁護士は、刑事事件と同様に、刑を軽くするために示談ばかりに力を入れて、少年の更正に対する視点がやや欠けているのではないかという批判をする人がいました。

ですが、弁護士の中でも議論が深まり、付添人の役割論が精査されるとともに、「少年事件における示談は少年の更正のステップにしなければならない」という考え方は、付添人活動に熱心な弁護士にはある意味スタンダードなものになっています。

ところが被害者保護が少年事件においても叫ばれるようになってから、少年審判の場面でも必ず調査官は示談の有無を尋ねるし、示談が遅れている場合は暗に批判的な意見が調査意見書に載るケースも出てきました。つまりは厳罰化含めた少年審判の変化が、付添人弁護士にも示談を急がせることになってきたという背景もあるわけです。

さらに司法制度改革によって弁護士が増えて、全件付添人制度を担う若い弁護士が増えたことは喜ばしいことだったわけですが、今度は「質の低下」という問題に直面することになってきています。

一昔前までは付添人は、趣味的であり職人的な業務でしたが、担う弁護士が増えるにつれて何となく刑事弁護人と付添人の違いを意識しないままに漫然と付添人活動を行い、示談においても特有の配慮に欠ける付添人が増えてきているのは事実かもしれません。

以上の意味で元調査官の参考人の発言は、その意図するところとは違うと思いますが、現代的な問題点も言い当てているとも感じました。

◆ 2014年少年法改正の評価は

さて結論からいうと私は今回の改正は評価できると思っています。

メディアには「厳罰化」という言葉が踊りましたが、処遇の幅を広くして、現場において柔軟な量刑を選択できるようにしたことは妥当というべきでしょう。

この点、「少年事件は重大犯罪化していないし、そもそも非行は減少しているのだから改正の必要はない」という主張もありましたが、余り噛み合っていないと思います。

確かに無期刑や不定期刑の上限が問題になる少年事件はさほど多くありません。
ですが、その一つ一つの事件において被害者・遺族が納得できる処遇選択の幅を用意しておくことは、少年法というある意味、社会に理解されにくいシステムを今後も維持するためには不可欠に感じます。

実際、無期刑の緩和の制度趣旨としては、少年の可塑性以外に、「年少者に対する社会の寛容が期待できること」(「注釈少年法・改定版」有斐閣・409頁)が指摘されていますが、その寛容が期待できないために国会論議が開始したわけですから、制度趣旨からもやむを得ないものでしょう。

むしろ国選付添人が拡大するという成果が得られた以上、それをより実りあるものにする努力が求められています。

弁護士会がある程度の質を保った、いわば少年法の予定するレベルの「付添人」を輩出できるかが問われていますが、今の特に若手弁護士が置かれた状況を見るときに余り楽観的ではいられないと思いますし、ある意味付添人活動をリードしてきた一定層の弁護士の負担が増える改正・・という感じもするところです。

投稿者プロフィール

弁護士 古賀克重
弁護士 古賀克重弁護士
弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。

弁護士 古賀克重

弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。