大連律士会との交流、大連に法律相談センターはなかった
福岡県弁護士会執行部は国際委員会のメンバーとともに、大連律士協会(弁護士会)を訪問しました。
福岡県弁護士会の広報誌「月報」にその報告をしましたので、若干加筆してご紹介します。
目次
◆ 大連律師協会との交流とは
大連との交流は、1992年、日中法律家協会のメンバーを主体とした福岡県弁護士会訪中団が大連を訪問したのが始まり。
その後も交流を続け、2010年2月、大連から18名を迎え、正式に福岡県弁護士会と大連律師協会(弁護士会)が交流提携の調印を行うに至りました。
それ以来、福岡県弁護士会と大連律師会が交互に往訪して国際交流を継続しています。
◆ 大連律師協会に法律相談センターはなかった
ちなみに大連律師協会の会員数は2633人、うち女性会員は1077名(42・6%)に達しており、日本よりも女性進出が進んでいるようです。
一方において、大連には法律相談センターはなく、弁護士会が会員に事件を提供する機会を設けたり、新人弁護士をトレーニングするという発想はないようでした。
市民のためにリーガルサービスを提供するという視点もないようで、事件は知人関係からの紹介が主たるものということ。サイトによる広報も余り力を入れていないようです。
やはりまだまだ一般市民には法治が行き届いておらず、日本におけるリーガルサービスはそれなりに充実してきていることを感じました。
また「食べていけない新人弁護士も多いよ」と平然と言ってのける大連の弁護士の言葉に、中国の「弱肉強食の世界」を垣間見る気もしました。業務内容についても、「弁護士自治」がない大連と「弁護士自治」を最大の特徴とする日本との違いも肌感覚で伝わってきました。
◆ 人口600万人の大連
さて国際委員会及び弁護士会新旧執行部から構成される訪問団20名は、大連に到着し、そのまま宿泊先のホテルに向かいます。
大連市の人口は600万人。中国東北部遼寧省では瀋陽市に次ぐ規模です。
車窓を流れる大連の風景は、近代的なビル群と昔ながらの老朽した建物が混在する大都市といった趣きでしょうか。ロシアの租借地時代、そして日本の租借地時代を経て、それぞれの時代を感じさせるレトロな雰囲気を持った建物も少なくありません。
緯度的には仙台と同じということで、30度超の猛暑が続いていた福岡からするととても心地よい気候でした。
ホテル到着後は、福岡銀行大連支店及び北九州貿易協会大連事務所からも参加し、卓話会が開催。
大連進出企業の動向や大連の雰囲気などをお聞きすることができました。
現在の日本と中国の政治情勢からかなり警戒していましたが、中国で最も親日な都市であり、反日デモも全く起きていないと聞いて正直安堵しました。
◆ 日系企業・裁判所訪問
翌日は、大連ソフトバンクを訪問し、BPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)の現場を見学したり、大連市中級人民法院を表敬訪問しました。
日本統治時代の旧「関東地方法院」である裁判所1階のホールには、裁判官直筆による達筆の書や写真が飾られ、日本の裁判所よりも開放的な雰囲気です。
残念ながら裁判自体は傍聴できませんでしたが、裁判官との質疑応答が行われました。
訪問団から「日本の裁判所では夜遅くまで窓の明かりが消えませんが、こちらはどうですか」と質問すると、「そこは中国も全く同じです」と笑顔が返ってきました。
◆ 大連律師会との法律セミナー
その後移動して、福岡県弁護士会と大連律士会との法律セミナーを開催。
まず、山口銀行のU氏が、「日系企業が中国で遭遇する様々な問題」と題する講演を行いました。
U氏は、「当局の権限が大きく、担当者を知っているかでかなり違う」、「不渡が出ても当局への罰金のみで取引停止にならない」、「譲ったら負けという意識が強い」、「自社仕入企業を立ち上げ利ザヤを抜くことがある」と率直な感想を述べた上、「郷にいれば郷に従えで理解し合うことが大事。法制度も急速に整備されつつある」と締めくくりました。
一方、当会の中村亮介弁護士は、上海留学経験を生かした流暢な中国語で「従業員の競業禁止」と題する発表を行いました。
大連の弁護士からの発表では、ちょうど大連で外資系製薬会社による賄賂事件が発覚して社会問題化したことが報告され、製薬企業の抱える問題点について、改めて考えさせられました。
セミナー終了後の懇親会においては、中国語の堪能な国際委員会のメンバーに助けられ、大連律士協会の弁護士と本音レベルの懇談も深めることもできました。
◆ さらに続く国際交流
初めて足を踏み入れた中国本土は、日本との様々な違いを肌感覚で感じる機会になりました。
例えば、車が行き交う3~4車線の幹線道路を、老若男女問わず、時間帯を問わず、車線と車線の間に立ち止まりつつ平気で横断していく生命力(?)には何とも驚かされます。
そして何よりも毎年の交流が、着実に実を結んでいることを実感しました。
来年度は大連律士協会のメンバーが福岡を訪問して、法曹間の国際交流を継続する予定です。