医療紛争処理マニュアル、大阪弁護士会医療委員会が出版
大阪弁護士会医療委員会が「医療紛争処理マニュアル」を出版しました。
患者側弁護士や裁判官が医療過誤訴訟のマニュアル、ないし、論文を発表することは増えていますが、弁護士会の委員会として出版した点が目新しいところです。
具体的には、患者側弁護士だけでなく医療機関側弁護士も一緒に作成してます。そのため、同じ論点について、見開き左側は患者側弁護士のコメント、右側は医療機関側弁護士のコメントになっています。
患者側弁護士の書籍・マニュアル・論文は逐一目を通すようにしていますので、私が今回面白く感じたのも、医療機関側弁護士のコメント部分でした。
例えば医療機関側も、患者側と同様に第三者の医師の意見を聴取したり、当事者と第三者の意見が食い違うこともあるようです。
可能であれば、実質答弁前に、第三者的な医師の客観的な意見を聴取することもある・・ただし、専門医5名の意見が全員異なったことや、当初は無理筋と思われた医療当事者の意見が後に正しいことが判明した場合など、医療において何が真実か早期に見極めることは困難であり、慎重さが求められる(同書9頁)。
また専門委員の活用については、患者側弁護士は警戒感を持っていますが、医療機関側も同様に考えていることが分かります。
実際に専門委員が関与した事件においても、これにより、紛争の早期解決に寄与した例が多いとは必ずしも言えない。ちなみに、専門委員の関与・説明のあったケースでも、専門委員の意見や見解とは別に鑑定が実施され、その鑑定結果に沿って、和解ないし判決確定で終了するというケースが多いというのが実情と思われる(同書11頁)。
裁判所側は訴訟の早い段階で専門委員を関与させ、その意見に従って争点整理したり、心証を取りたがる傾向があります。
それに対して、1人の専門家の意見に飛びつくことがいかに危険か、患者側弁護士も医療機関側弁護士も体験上、良く知っています。
さらに最終準備書面においても、「提出すべき」という方向で、患者側弁護士・医療機関側弁護士も一致しています(同所22頁・23頁)。
これに対して、裁判所は、「裁判所は通常、集中証拠調べ終了時点で、おおむねの心証を固めており、最終準備書面を必要とする事案は必ずしも多いとはいえない」(判例タイムズ1389号22頁・「医療訴訟の審理運営指針(改定版)・東京地方裁判所医療訴訟対策委員会)としており、当事者代理人と異なる見解を示しています。
このように、患者側弁護士・医療機関側弁護士、それぞれ立ち位置は違うものの、当事者の意向を十分に反映させつつ、厳密な手続で結論を導きたいという思いは一緒であることが感じられました。
むしろ裁判所の問題点については、双方の代理人が共同申し入れをするなど、むしろ裁判所側に運営改善を求めることが実は多いのかもしれません。
そんなことも考えさせてくれる一冊でした。
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