いじめ防止対策推進法が施行、Q&Aと今後の課題
いじめ防止対策推進法が2013年9月28日、施行されました。
同法は与野党の議員立法として、6月28日に成立・公布されていたもの(平成25年法律第71号)。
いじめ防止対策推進法のポイントは、いじめの防止のために基本理念を定めること、国・地方公共団体の責務を明らかにすること、基本方針を策定することです(1条)。
基本方針の策定は、今後、有識者会議を設けて取りまとめられる予定です。
今回の改正のポイントを含め、いじめ防止対策推進法のQ&Aをまとめました。
いじめとはどのように定義されているのですか?
いじめとは、第2条が、「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。」と定義しています。
「客観的に認められるものに限る」とか「攻撃をくわえる行為」とか、厳密に定義づけるべきという議論もありましたが、被害児童生徒の立場に立って判断すべきという見地から、そのような限定を加えず、より広い定義となったものです(平成25年6月19日・衆議院文部科学委員会)。
以上の定義を前提とした訓示規定として、「児童等は、いじめを行ってはならない。」と4条が規定しています。
インターネットによる行為もいじめの対象ですか?
「心理的又は物理的な影響を与える行為」とはインターネットによる行為も含まれます。2条もあえて「インターネットを通じて行われるものを含む」と明記し、疑義が出ないように配慮しています。
インターネットによるいじめに対して対策が盛り込まれていますか?
いじめ防止対策推進法19条が、「インターネットを通じて行われるいじめに対する対策の推進」を定めています。
1項は、学校の啓発活動について定めます。つまり、学校は、「当該学校に在籍する児童等及びその保護者が、発信された情報の高度の流通性、発信者の匿名性その他のインターネットを通じて送信される情報の特性を踏まえて、インターネットを通じて行われるいじめを防止し、及び効果的に対処することができるよう、これらの者に対し、必要な啓発活動を行うものとする。」と規定されました。
また2項は、「国及び地方公共団体は、児童等がインターネットを通じて行われるいじめに巻き込まれていないかどうかを監視する関係機関又は関係団体の取組を支援するとともに、インターネットを通じて行われるいじめに関する事案に対処する体制の整備に努めるものとする。」とも定めています。
3項、いじめ情報を削除できる規定です。いじめを受けた児童又は保護者が、いじめに係る情報の削除を求めたり又は発信者情報の開示を請求しようとするときは、法務局又は地方法務局の協力を求めることができるとされました。
保護者の責任が明記されていますが、例えば、いじめ裁判において過失相殺が主張されたり、責任の押し付け合いになりませんか?
まさに責任の押し付け合いにならないように、与党案をとりまとめる際、「前3項の規定は、いじめの防止等に関する学校の設置者及びその設置する学校の責任を軽減するものと解してはならない。」との規定が設けられたものです(平成25年6月19日・衆議院文部科学委員会)。
学校はいじめを行う児童に対してどのような措置をとれますか?
25条及び26条が、児童に対する懲戒および出席停止制度を定め、「いじめを受けた児童党その他の児童党が安心して教育を受けられるようにするために必要な措置を速やかに講ずるものとする」と定めています。学校教育法にも規定されていますが、重ねて明示したという位置付けになります。
国会審議では「厳罰化ではないか」という点が議論になりましたが、事前に適切な指導を行うことを前提にしており厳罰化ではない、特に26条は、本人に対する懲戒というよりも、学校の秩序を維持して、他の児童等の義務教育を受ける権利を保障する観点から設けたものである、と答弁されています。
いじめで児童が死亡したにもかかわらず、学校がその後実施した校内アンケート結果について、遺族に開示してくれません。同法は知る権利を保障していないのでしょうか?
鹿児島県出水市での中学生いじめ自殺事件では、遺族にアンケートが1枚も開示されずに問題になり、安倍総理は「遺族の気持ちにはできる限り応えていくべきだろう」と答弁してます。
いじめ防止対策推進法は、23条3項において、学校がいじめを受けた児童等の保護者に対する支援を行うこととしています。この「支援」の中には、情報の提供といったことも含まれると考えられます。
また、28条2項において、「学校の設置者や学校が重大事態に係るアンケートなどの調査を行ったときは、いじめを受けた児童等及びその保護者に対し、当該調査に係る重大事態の事実関係等の必要な情報を適切に提供する」とも明記されました。
以上をふまえて、「学校の設置者や学校において適切に情報提供がなされることをしっかりと期待をしたい」と国会で答弁されています(平成25年6月19日・衆議院文部科学委員会)。
いじめ防止対策推進法は「法律だけでいじめがなくなるのか」とその実効性に懐疑的な声があるのも事実。
しかし一方において、今まではいじめが行われても、学校関係者が事実を隠し表沙汰にならないよう配慮するあまり、被害児童や家族が追い込まれていたのも事実でしょう。文部科学省の半年間の調査でも15万件のいじめが行われていたという数字があがっています。
34条の学校評価における留意事項も、以下のように、いじめの隠蔽体質を改革する意味で定めたと明確に国会答弁されている通りです。
「そもそも、いじめにつきましては、その問題が顕在化することによる学校の評価に対する影響を気にする余り、学校がいじめの事実を隠蔽したり、いじめの実態把握やいじめに対する措置が適切に行われないといったこともかなりの程度あったのではないかと、その前提として考えているわけでございまして、提案者としては、いじめはどこの学校でも起こり得るものであるとの認識のもと、その早期発見や、起こった後の再発防止のための取り組み等について適正な評価が行われるようにすることにより、隠蔽体質を改革する意味を込めまして、第34条の規定を置くこととしたものでございます。」
今後、この法律が学校関係者に広く周知・理解され、学校関係者の意識が転換して、真の意味でいじめの抑止力として機能していくかがまさに問われているでしょう。
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