医療過誤訴訟の平均審理期間は25月、最高裁が報告書を発表
医療過誤訴訟の平均審理期間は25・1月・・最高裁が「裁判の迅速化に係る検証に関する報告書」を発表しています。
この報告書は、裁判の迅速化に関する法律が平成15年に施行されて以来、同法8条1項に基づいて、裁判の迅速に関する検証を行っているもの。「概況編」と「社会的要因編」の2分冊になっています。
平成17年、平成19年、平成21年、平成23年に続いて、今回が既に5回目の報告ということになります。
この最高裁の第5回報告書においても、医療過誤訴訟は13ページを割いて分析を試みています。
目次
◆ 平均審理期間
まず冒頭で指摘したように、医療過誤訴訟の平均審理期間は2年強。民事一審訴訟の平均審理期間が8・9月ですから約3倍になります。
1993年(平成5年)には42・3月もかかっていましたから、かなり短縮されてきたといえるでしょう。
2003年(平成15年)に28月と初めて30月を切りました。
そして2006年(平成18年)に25・5月になって以降は、25月前後で推移していますから、おおむね医療過誤訴訟の平均審理期間は定まったという感がします。
◆ 事件数
事件数(新受件数)も、私が弁護士登録した1995年(平成7年)には483件でしたが、その後年々増加。
2004年(平成16年)には1089件と初めて1000件を超えました。
しかしその後は減少に転じており、2009年(平成21年)からは700件台で推移し、2012年(平成24年)も770件にとどまりました。
初めて700件台になったのが2000年(平成12年)ですから、医療過誤訴訟は、2004年を山としてちょうど出発点に戻ったような感じでしょうか。
◆ 診療科目の事件数と平均審理期間
診療科目としては内科が一番多く164件。そして外科145件、整形外科99件、歯科86件、産婦人科59件と続きます。産婦人科は一般の印象よりもかなり少ない数にとどまっているといえるでしょう。
面白いのは診療科目別の平均審理期間。
一番長いのは小児科の41・4月。麻酔科35・7月、産婦人科33・4月、皮膚科32・5月、泌尿器科27・2月と続きます。
事件数の多い内科は24月、外科は29・2月、整形外科24・4月、歯科17・7月になっています。
小児科はエビデンスがなかったり、見解が分かれる医療文献も少なからずありますからその影響かもしれません。
◆ 証拠保全の実施率
証拠保全とは、予め証拠調べをしていなければ証拠を使用することが困難な場合に、裁判所が現場に臨んで検証を行う手続。要するに医療過誤では、訴訟を起こす前に診療録(カルテ)を入手する法的手続です。
医療過誤訴訟においても一昔前は、診療録(カルテ)の入手に苦労し、まずは証拠保全を実施することが求められていたわけです。
報告書によると、証拠保全を実施していたのは147件(17・9%)にとどまり、674件(82・1%)が証拠保全を実施していません。
医療機関に対して診療録の開示を求め、医療機関が任意に応じる運用が定着していることをうかがわせます。
私もここ10年以上は証拠保全を実施しておらず、全て任意に診療録を入手できています。
◆ 鑑定の状況
医療過誤訴訟では、過失(注意義務違反)の存否、機序の有無など、争点が医学的知見に基づき高度に専門化します。
患者側弁護士、医療機関側弁護士が、それぞれ医療文献・裁判例などを提出して、争点に対する見解を主張していきますが、医療文献も多岐に分かれる上、医療文献の記載の評価自体が分かれることも少なくありません。
そのような場合、裁判所が、第三者の医師に対して判断の結果を報告させて、裁判官の専門的知識を補充する証拠調べ、いわゆる「鑑定」が実施されます。
鑑定を実施した医療過誤訴訟の平均審理期間は、実に53・4月と4年以上の長さになります。前述の医療過誤訴訟全体の平均審理期間が25・5月ですから、その2倍に達しています。
鑑定人指定から鑑定書提出までの平均期間は4・7月。審理期間が長い事件ほど、鑑定書提出まで時間がかかっており、鑑定採用する事件は、この期間の短縮がポイントといえそうです。
もっとも平成24年は鑑定実施件数は106件・12・9%にとどまり、鑑定実施は、必要不可欠な事件に限定する方向が見て取れます。
最高裁の報告書も「まとめ」で記しているように、医療過誤訴訟の平均審理期間が長い理由としては、①専門的知見の不足による争点整理の長期化、②証拠の偏在、③鑑定の長期化、④感情的対立が指摘されています。
ただ審理期間の短縮は、現状が限界というべきであって、これ以上拙速に走るよりは、審理内容の充実がより求められていると思います。