都市型公設事務所の未来は?全国連絡会議で意見交換
「都市型公設事務所」を知っていますか?
弁護士過疎地域へ赴任する弁護士養成などを目的として、各地弁護士会や弁護士会連合会が立ち上げた法律事務所です。
目次
全国15の都市型公設事務所
2001年9月に設立された「フロンティア基金」を皮切りに、現在、全国に15公設事務所が設立されています。
具体的には、2002年6月の「東京パブリック」および「東京パブリック三田支所」、2003年5月の「渋谷シビック」、2004年4月の「北千住パブリック」、2004年6月の「渋谷パブリック」、2004年8月の「岡山パブリック」、2005年3月の「すずらん基金」、2005年4月の「広島みらい」、2007年4月の「大阪パブリック」、2008年3月の「多摩パブリック」、2008年4月の「やまびこ基金」、2008年9月の「あさかぜ基金」、2008年10月の「ひょうごパブリック」、2009年4月の「町田シビック」、そして2009年9月の「かながわパブリック」です。
前述の弁護士過疎の解消以外にも、刑事弁護の拠点、不採算事件・困難事件への対応、弁護士任官支援、地域の専門家とのネットワークの構築などが、その存在意義とされていて、各公設事務所によって力点の置き方が異なります。
例えば、大阪パブリック法律事務所は、年800件の大阪の裁判員裁判のうち200件を担当するなど、大阪の裁判員制度にとって必要不可欠な地位を占めているとのこと。
北千住パブリック法律事務所も開設以来8年間で1000件の刑事事件を手掛けるとともに、東京地裁の裁判員裁判の約15%程度を担当しています。
また、岡山パブリックは弁護士と社会福祉士が共同で後見事件の対応にあたり、約350件の後見事件を手がけるなど独自色を打ち出しています。ちなみに岡山パブリック所長の井上雅雄弁護士はハンセン病違憲国賠訴訟でともに原告弁護団として活動した仲。個人事務所を閉じて3年ぶりに所長に復帰したということで頭が下がります。
曲がり角を迎えつつある公設事務所
この都市型公設事務所が10年余を経て曲がり角を迎えつつあります。
きっかけの一つは弁護士増員による弁護士を取り巻く環境の変化でしょう。
東京パブリックの10周年記念誌でも、「これからの各パブリック事務所は、それぞれの役割を基調に据えながら、地域自治体とも連携を深め、弁護士会が直面する様々な課題に対し、まさに最前線で対応しています」としつつも、「この間の弁護士増員に伴い、採算性の低い法律扶助事件や国選弁護事件などに取り組む弁護士が増えていくことによって、都市型公設事務所の役割は変容を迎えつつあるように思います」と指摘してます。
また一つは財政問題です。
都市型公設事務所はいわば、新人弁護士の教育だったり、不採算事件の受任を前提としますから事務所経営は苦しいものになります。特に弁護士過疎地へ赴任する弁護士を要請する公設事務所は、構造的に赤字構造といっても過言ではありません。
従って、各弁護士会及び弁護士会連合会が支援することによって成り立ちますが、その支援の度合いにはかなり濃淡もあります。
そのような厳しい現状をふまえつつ、日弁連主催による「第10回都市型公設事務所等連絡協議会」が開催され、15公設事務所から工夫した取り組みが報告されました。
日本より充実したオーストラリアの司法支援
その上で、福井康太大阪大学教授による「都市型公設法律事務所の新しいあり方」という講演も行われました。
福井教授は、オーストラリアの司法アクセス支援制度について報告。
印象に残ったのは、オーストラリアの人口は日本の約5分の1であるにもかかわらず、司法アクセス支援センターの事業収入は657億円であるということ。これに対して、日本の司法支援センターの平成24年度予算額は459・2億円にとどまっています。
福井教授は、日本の都市型公設事務所の可能性として、以下の4点を指摘されました。
・パイロット事業的なプロボノ活動の受け皿となる
・法テラスで受任が難しい複雑な私選弁護を公設法律事務所で受任する
・社会福祉連携業務について、費用度外視のパイロット事業を法テラスが行い、費用的にペイするかどうかの試行実験を都市型公設事務所が行う
・パイロット事業への参加の機会を若手弁護士に提供する
福井教授のご指摘は、日本の都市型公設事務所の直面する財政面からするとやや難しいかな、という感もしますが、各国の公設事務所類似の制度にも目を向けていく重要性を感じさせて頂いた講演でした。
日弁連のより積極的な支援を
この公設事務所等連絡協議会は今回で10回目のようですが、各地の取り組みが非常に参考になるとともに、「あさかぜ基金法律事務所」にも何か活かせることはないか、真剣に考えさせられる良い協議会でした。
九州弁護士連合会が九州の弁護士過疎解消のために開設した「あさかぜ基金法律事務所」も経営に苦しんでいます。
本年度福岡県弁護士会執行部は、過去10年の執行部経験者に声をかけて、「あさかぜ応援団」を結成しました。年に1件程度、事件を共同受任したり、あさかぜに事件紹介するという制度です。多数の弁護士に快諾してもらい既に50人を超えました。
しかし本来は九弁連全体で支える法律事務所というべき。現状は福岡県弁護士会だけに負荷がかかっていることは否めません。
弁護士過疎地に赴任する弁護士養成を中心にする公設事務所、例えば、あさかぜ基金、やまびこ基金、すずらんなどに対しては、司法制度改革の目標の一つとして過疎地解消を掲げてきた日弁連が、これまで以上の援助を行うことも検討してしかるべきと考えます。
いずれにしろ日弁連が真剣に新たな支援策を検討しなければ、現在15ある公設事務所の数はいずれ減少していく可能性も秘めているでしょう。
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