医療・看護と法律~裁判例を通じて学ぶリスクマネジメント
日本赤十字九州国際看護大学において、「医療・看護と法律」という講義を行いました。
対象は学生ではなく、既に5年以上の経験ある看護師さん。救急看護認定看護師の教育課程になります。
リスクマネジメントの一貫であること、多彩な講師陣の中で法律家は私だけであることから、やはり医療過誤裁判例を取りあげて、具体的なイメージをもってもらうことを心がけました。
保健師助産師看護師法5条は、看護師の業務として、「傷病者若しくはじょく婦に対する」「療養上の世話」又は「診療の補助」を掲げています。
そしてその業務は独占され、同法31条が、「看護師でない者は、第5条に規定する業をしてはならない」と定めています。
そこで、医療過誤裁判例について、「療養上の世話」、「診療の補助」に分類した上、さらに「救急」分野も取りあげて、具体的に解説していきました。
例えば、「療養上の世話」においては、入院中の患者(80歳)がおにぎりを誤嚥し窒息死したケースについて、裁判所が医療機関及び看護師に対して、約30分間病室を離れ、頻回な見回りをせずに、摂食状況を見守らなかった点に過失があると判断して、約2880万円の支払いを命じた裁判例を取りあげました。
「30分病室を離れ」というところに皆さん「厳しいな~」という反応を示される一方で、30分という個別認定を一般化するものではなくて、個別事情が重要であること、例えば、この事案では、嚥下障害があったこと、既に牛乳にむせていたこと、咀嚼のために義歯装着が適当だったのに装着させないまま、おにぎりを提供した点を重視していることを説明すると、納得して頂けたようでした。
このような感じで、判例を15ほどピックアップ。個別事情とともに看護師の対応の是非を一緒に考えていきました。
既に5年以上の経験がある看護師さん達なので積極的に手が上がり、最後はゼミのような意見交換に。
「その看護師の対応はやはり問題でしょう」とか「そもそも救急車が最初、第一次医療機関に搬送した点に問題があるのではないでしょうか」など、実務に即した質問・意見が飛び交います。
私自身も、救急という迅速かつ的確な措置の求められる現場の雰囲気を理解することができる貴重な機会になりました。
スキルアップのために勤務先の病院を休職ないし退職して資格を目指す方々なので、意識の高さが際だちました。
患者が医療機関を選択する際には、「認定看護師」が所属しているかも、一つの重要な情報になるのではないでしょうか。
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