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カリウム製剤を急速静注し患者が心停止した事例が報告、医療安全情報221号

カリウム製剤を急速静注して患者が心停止した事例が報告

 公益財団法人日本医療機能評価機構が、「医療安全情報」221号・2025年4月号を公表しました。

 カリウム製剤をプレフィルドシリンジから注射器に移し替え、急速静注したため、患者が心停止した事例が報告されました。
 今回の医療安全情報が「第2報」とあるように、過去にもカリウム製剤の誤投与は度々報告されており、重要なインシデントの類型になっています。

 カリウムは生命維持に重要な電解質の1つ。体内のカリウムの大半は細胞内に存在しています。カリウムは、細胞浸透圧の維持、神経・筋肉の収縮などに必要なミネラルになるのです。例えば、心疾患時の低カリウム状態は、重症嘔吐や下痢を引き起こすため、カリウム製剤の投与が必要になることがあります。

 プレフィルドシリンジとは、従来のアンプルやバイアルのように、使用の際に薬液を注射器に吸い上げる方式ではなく、あらかじめ治療に必要な薬剤がガラス製やプラスチック製のシリンジ(注射器)の中に充填された製品をいいます。
 身近なところでは、新型インフルエンザのワクチン接種などで、プレフィルドシリンジ製剤が利用されています。

 医療現場における業務効率化や薬剤の取り違え・誤投与を防止することを目的とした製品になります。

事例

 今回の医療安全情報にて報告された事例は、以下の通りです。

 循環器内科の医師が、ICUで治療中の患者に対する指示として、「K補正:3.0mEq/L以下でKCL20mEq/20mLを10mL/hで投与」と入力しました。
 K値が1.8mEq/Lであったため、リーダー看護師と担当看護師は、医師からの指示を見てKCLを20mL投与することを確認しました。
 リーダー看護師は、指示通りに投与するため、プレフィルドシリンジのKCL20mLを注射器に移し替えてしまったものです。
 その後、担当看護師に10mL/hで投与するよう伝え、注射器を渡しました。
 そして、担当看護師は、指示に記載された投与方法や流量を確認しないまま、中心静脈ラインから高濃度カリウム製剤を急速静注してしまい、患者が心停止したものです。

再発防止のポイント

 再発防止の取組としては、

 「プレフィルドシリンジを使用する際は、薬液を注射器に移し替えない」
 「プレフィルドシリンジの剤形の目的を周知する」
などが指摘されています。

添付文書の記載と最高裁判決

 カリウム製剤の添付文書には、「カリウム製剤を急速静注すると、不整脈、場合によっては心停止を起こすので、点滴静脈内注射のみに使用すること」等の記載がありますが、カリウム製剤による医療事故は少なくなく、報告例が相次いでいるものです。

 この点、最高裁平成8年1月23日判決は、「医師が医薬品を使用するにあたって添付文書(能書)に記載された使用上の注意事項に従わず、それによって医療事故が発生した場合にはこれに従わなかったことにつき特段の合理的理由がない限り、当該医師の過失が推定される」と判示しています。

 民事だけでなく刑事事件にもなっており、例えば、カリウム製剤の原液投与によって患者が死亡した事案では、准看護師が業務上過失致死罪で罰金70万円の略式命令を受けています。

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医療安全情報(日本医療機能評価機構)

投稿者プロフィール

弁護士 古賀克重
弁護士 古賀克重弁護士
弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。

弁護士 古賀克重

弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。