頚椎圧迫骨折による脊柱変形は認められないと後遺障害を否認した神戸地裁判決、自保ジャーナル2169号
目次
自保ジャーナル2169号43頁の紹介
私が担当した交通事故訴訟の判決(神戸地裁令和5年11月15日)が、判例雑誌である自保ジャーナル(2169号43頁)に掲載されましたのでご紹介します。
自保ジャーナルは交通事故訴訟に特化した専門誌です。
これまでも担当した交通事故訴訟の判決について複数掲載されていますので、末尾記事も参照ください。。
本件は、被告及び損害保険会社から依頼を受けて、訴訟を対応しました。
原告主張の11級7号脊柱変形障害及び12級13号右上下肢筋力低下等の併合10級後遺障害について、裁判所は、頸椎圧迫骨折は認められず、また右上下肢の各症状についても異常所見は見当たらない等として後遺障害の残存を否認したものです。
事案の概要
原告(50代女性)は、渋滞のため停車中、トンネル内において被告車両に追突され、頸椎捻挫、腰椎捻挫、右上肢麻痺、頸椎圧迫骨折等の傷害を負い、約20日入院、約2年1ヶ月通院しました。
自賠責は後遺障害非該当でしたが、原告は、11級7号脊柱変形障害、12級13号右上下肢筋力低下等から併合10級後遺障害を残したとして、既払金約100万円を控除し、約2700万円を求めて訴えを提起したものです。
裁判所は、原告主張の11級脊柱変形障害及び12級右上下肢筋力低下等による併合10級後遺障害を否認し、本件事故による後遺障害の残存も否認しました(自保ジャーナル2169号43頁)。
本判決は原告から控訴なく確定しています。
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神戸地裁の判断
まず裁判所は、症状及び治療の経過について詳細に事実認定しました。
当日のC病院では、レントゲン撮影等の画像検査や投薬の処方等の治療も施されていないこと、仮に原告の症状が重篤であり、真にレントゲン撮影等が必要な状況と見られたのであれば、C病院側としても、他病院へ紹介するなど、しかるべき対応をするものと解されることに照らすと、本件事故直後の症状としては、外傷により、脊髄損傷を来したような重篤な症状が存していたものとは捉えられないとしました。
そして、2日後の平成27年9月22日及び28日に受診したD病院では、頸椎、胸部及び腹部のレントゲン撮影が施行され、内服薬、外用薬の処方がされているものの、画像所見や症状の経過等についての格別の記載は診療録上見当たらないし、この時期には、原告が、両上肢のしびれ、放散痛を訴えたことはなかったものであるとしました。
さらに、D病院最終通院から2週間余り後の同年10月14日に受診したF整形では、初診時に頸椎捻挫、腰椎捻挫と診断されたが、診療録の同日欄には、右上肢等に関する症状を原告が訴えた趣旨の記載はなく、「手足の運動と感覚異常はない。」と、むしろ右上肢等のしびれなどの異常があることとは相容れない内容の記載がされているところであるとしました。
原告が初めて右上肢についてしびれを訴えたのは、平成27年10月26日であり、その時点では本件事故から1ケ月以上が経過していると指摘しました。平成27年11月頃、平成28年6月頃など、症状が軽減・回復の傾向にあった時期が複数存在するとも指摘しました。
受傷当初の症状、それを受けた治療等の状況に照らせば、本件事故による負傷として、当初から脊髄損傷を来したような重篤な症状があったとは評価できず、右上肢のしびれ、痛み、筋力の低下の症状については、本件事故から1ヶ月以上が経過した後に発現したものと解されるから、本件事故直後からの一貫した症状があるとはいえず、当該症状の原因が、本件事故による受傷によるものとは認め難いと判断しました。
そして、右手のしびれ、右上肢の頑固な痛み、右上肢の筋力低下の各症状について、画像所見、神経学的所見からは、本件事故に起因する明らかな異常所見は見当たらず、本件事故による受傷が原因で発症した症状であることを医学的に説明することはできず、本件事故との間に相当因果関係を有する障害とは捉え難いと判断しました。
さらに、脊柱の変形障害については、本件事故後から変形性頸椎症に対する手術施行に至るまで、経時的に撮られた画像の所見からは、明らかな外傷性と示唆される異常所見は認められないこと、症状の経過等に照らせば、変形性頸椎症に対するC2からC7への椎弓形成術の施行は、本件事故と相当因果関係を有するものとは捉え難いと判断しました。
以上をふまえて、神戸地裁は、原告には、本件事故による後遺障害が残存したものとは認め難いと判断したものです。
ポイント
本件は、自賠責が後遺障害非該当でしたが、原告が後遺障害の残存を強く争いました。
特に「圧迫骨折」の有無については画像評価が問題になり、原告が医師意見書を提出し、被告も反論の医師意見書を提出しました。
通常はその段階で裁判所が心証を取っていくのですが、本件は、原告が、同一医師による複数の反論意見書を追加提出してきたため、対応が必要になったものです。
被告としては、同一医師による反論では議論が錯綜することもありえたため、裁判所に端的に理解してもらうため、別の医師2名による意見書を追加提出するなど、医学的知見の立証をかなり工夫したものです。
また原告本人に対する反対尋問では、特に原告の主張するしびれ・痛み等について診療録を詳細に分析した上、診療録記載と主訴との不整合さを浮きだたせるように注力し、その内容については判決でも詳細に指摘されています。
自保ジャーナルに掲載された担当した交通事故訴訟
弁護士古賀克重が担当した交通事故訴訟で、自保ジャーナルに掲載された判決について以下の記事でも解説しています。
年齢限定特約により損害保険会社の保険免責を認めた福岡高裁判決、自保ジャーナル2141号
自賠責13級認定の左5指機能障害で10級された交通事故で後遺障害否認した大阪地裁判決、自保ジャーナル2135号
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関連情報
・古賀克重法律事務所・交通事故専門サイト
・古賀克重法律事務所・交通事故解説
・自保ジャーナル
投稿者プロフィール
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- 弁護士
- 弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。