彦根市立病院に5000万円の賠償を命じる大津地裁判決、頭痛を訴える患者を2度帰宅させ高度の意識障害が後遺
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頭痛を訴える患者を2度帰宅させ高度の意識障害が後遺
2度にわたって救急受診した女性に医師が適切な対応を取らなかったために意識障害が残ったケースについて、大津地方裁判所が、彦根市立病院を運営する彦根市に対して、約5000万円の損害賠償を命じる判決を言い渡しました。
高齢の女性が、2019年4月28日と同月30日、ひどい頭痛や全身の脱力感などを訴え彦根市立病院を2度にわたって救急受診しました。医師は鎮痛薬を処方するのみで帰宅させました。
ところが2度目の受診の翌日である5月1日、女性は意識障害を起こして救急搬送され、慢性硬膜下血腫と診断され、手術を受けたものの高度意識障害などの後遺症を負ったという事案です。
女性や家族が医師は遅くとも2度目の受診でCT検査等を実施すべき注意義務があったと主張して、彦根市に対して、2021年に約5825万円の損害賠償を求めて提訴していたものです。
なお女性は裁判中の2022年に老衰で死亡しています。
大津地裁の判断
大津地方裁判所は、女性は『今までに経験したことがない頭痛』などと訴え、慢性硬膜下血腫の発生率が増加すると言われている薬を服用していたことなどから、医師たちは脳の病気などが原因の頭痛の可能性を疑うべきだったと指摘しました。
その上で、一部の場合を除いて慢性硬膜下血腫の予後は極めて良好で、遅くとも2度目の受診でCT検査をしていれば、後遺症を回避できた高い蓋然性があるとして、病院側の過失を認め、彦根市に対しておよそ5000万円の支払いを命じたものです。
彦根市立病院で、2度にわたって救急受診した女性に医師が適切な対応を取らなかったために意識障害が残ったなどとして、大津地方裁判所は、17日、市におよそ5000万円の損害賠償を命じる判決を言い渡しました。
彦根市立病院は「判決文が届いていないため、現時点ではコメントを差し控えます」としています(2025年1月17日付NHK)。
裁判例・示談例
救急受診した患者に必要な諸検査を実施しなかったところ、その後患者が急変して障害を負う等して、責任が争われるのは典型的な医療事故の類型になります。裁判例・示談例ともにそれなりに多くみられます。
私が患者側弁護士として示談交渉した事案では、自宅階段から転落し後頭部痛を訴えているにもかかわらず医師が帰宅させ、その後急性硬膜下血腫により障害が後遺した事案などがあります(後記の関連記事を参照)。
損害論については、後遺障害1級ですと後遺症慰謝料は一般的に2800万円程度、死亡に比肩すべき障害を負ったとして家族に親族固有の慰謝料が認められるほか、後遺障害逸失利益が認められるのが通例です。
報道だけでは被害者の年齢・職業などは不明であり詳細は不明です。
後遺障害を負った被害者が事故後に死亡した事例において、当該事故と因果関係の認められない原因で死亡した場合には、最高裁が、死亡の事実は就労可能期間の算定上考慮すべきではないとして、死亡後の逸失利益を認めて、かつ、死亡後の生活費控除を否定しています(最高裁平成8年5月31日判決)。
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投稿者プロフィール
- 弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。