自宅駐車場からベンツが盗難された車両保険金請求は、核心部分に不合理な変遷がみられ、盗難の外形的事実を認められないとした名古屋高裁令和5年11月22日判決
目次
争点
盗難被害に遭ったと申告して車両保険金を請求した事案において、盗難の外形的事実の立証がないと判断した名古屋高裁令和5年11月22日判決を紹介します(自保ジャーナル2167号163頁)。
盗難という保険事故を理由とする保険金請求には、保険契約者が、「被保険者以外の者が被保険者の占有に係る被保険自動車をその所在場所から持ち去ったこと」という盗難の外形的な事実を主張立証する必要があります。
そして単に「外形的・客観的にみて第三者による持ち去りとみて矛盾のない状況」を立証しただけでは,盗難の外形的な事実を合理的な疑いを超える程度まで立証したことにはならないと考えられています。
最高裁は、その外形的な事実は、「被保険者の占有に係る被保険自動車が保険金請求者の主張する所在場所に置かれていたこと」及び「被保険者以外の者がその場所から被保険自動車を持ち去ったこと」と解釈しています(最高裁平成19年4月17日判決、最高裁平成19年4月23日判決)。
本件もその外形的事実が立証されているかが争点となった事案です。
事案の概要
原告は、夕方から翌日の朝方にかけて自宅駐車場に駐車していた被保険車両のメルセデス・ベンツが盗難されたとして、自動車保険契約を締結する保険会社に対し、車両保険金560万円を求めて訴えを提起しました。
1審の名古屋地方裁判所は、本件盗難に関する原告の供述は採用できず、本件盗難の外形的事実を認めることはできないとして、保険金請求を棄却しました。
原告が控訴しましたが、2審の名古屋高等裁判所も、1審判決を維持し、控訴を棄却しました(確定。自保ジャーナル2167号163頁)。
裁判所の判断
原審の名古屋地裁は、本件盗難の外形的事実(本件車両が夕方以降に自宅駐車場に置かれていたこと、及び、原告(原告代表者)以外の第三者がその場所から本件車両を持ち去ったこと)を認めることはできないとして、請求を棄却しました。
原告が控訴しましたが、2審の名古屋高等裁判所は、以下の理由により、その供述は信用できないと判断しました。
「控訴人の供述は、本件車両がないことに気づいた時期及びそのときの自宅駐車場の状況について、供述等が著しく変遷していることに加え、本件車両が盗難されたと考えられる時間帯における本件車両の鍵の所在についても変遷しており、防犯カメラを警察が確認したか否かについても供述等が変遷しており、本件車両の購入についても、その売買代金、支払方法について供述が変遷し、決算書類の記載を矛盾しており、のみならず控訴人は他人名義の領収証の偽造にまで及んでいる。」
「確かに、飲酒酩酊により記憶があいまいになることはあるとしても、飲酒酩酊していないときのこと、すなわち、本件盗難についての警察による捜査及び本件車両の売買契約に係る事実についても供述等が変遷しているのみならず、控訴人は、本件車両の売買代金支払についての領収証の偽造にまで及んでいること等からすれば、控訴人の態度は著しく誠実さを欠き、その供述等は到底信用することができない」
また、「控訴人の主張する日時以降、本件車両が自宅駐車場に置かれていたことは認められず、被保険者の占有に係る被保険自動車が保険金請求者の主張する所在場所に置かれていたことは認められないことととなるから、その余の点(被保険者以外の者がその場所から被保険自動車を持ち去ったこと)について判断するまでもなく、盗難の外形的事実を認めることはできない(最高裁平成19年4月23日判決。集民224号171頁参照)」」としました。
したがって、控訴人の主張には理由がなく、控訴人はそのほか種々主張するが、上記判断を左右するものではないと判断したものです。
ポイント
原判決及び本判決とも、最高裁の判断枠組みに従って検討し、盗難の外形的な事実を認めることができないと判断して、車両保険金請求を認めなかったものです。
本件の特徴としては、一審・二審ともに、保険金請求者及び家族の証言内容について、詳細に判断して、その信用性を吟味していることです。
本件のような盗難車両の保険金請求では、本人・関係者の供述内容が問題になることも少なくなく、実務における参考になるでしょう。
盗難事故の保険金請求については多数の裁判例があります。
最高裁平成19年4月23日判決以降のもとしては、盗難の外形的事実の立証がないとした裁判例として、名古屋高裁令和4年3月16日判決、名古屋高裁令和3年3月17日判決、大阪高裁令和2年2月21日判決、大阪高裁平成30年11月22日判決などがあります。
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