歯科治療中にバーが口腔内に落下し誤飲・誤嚥の可能性、歯科ヒヤリハット通信1号
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歯科ヒヤリ・ハット事例の収集へ
公益財団法人日本医療機能評価機構が、「歯科ヒヤリ・ハット事例収集等事業」を創設して、2023年10月から歯科診療所のヒヤリ・ハット事例を収集することになりました。
収集した事例については、「報告書」として公表されるほか、「歯科ヒヤリ・ハット事例検索」も可能になっています。
歯科のみのヒヤリハット事例の収集を行うことによって、多数の報告事例を共有し、再発防止策を浸透させていくことが期待されています。
歯科ヒヤリ・ハット通信1号
合わせて歯科ヒヤリハット通信も開始し、2024年10月、通信1号が公表されました。
通信1号で取り上げられた事故の内容は、バーが口腔内に落下し誤飲・誤嚥の可能性があったというものです。
歯科医院が右上7番のインレー窩洞形成中に、軟化象牙質を除去した後、エアタービンのバーを形成用バーに変えました。そして、術者が口腔内でエアタービンを回転させたところ、バーが口腔内に落下してしまったというものです。
幸いにして落下後すぐに患者の顔を横に向けて、介助者がバキュームでバーを吸引したため、患者の誤飲・誤嚥には至りませんでした。
事故の背景としては、バーをエアタービンに装着した際、奥まで挿入されているかの確認が不足していたというものです。
再発防止策としては
再発防止策としては、以下のものが提言されてています。
まず、エアタービンを使用する前に、「バーが奥まで挿入されているか」、「口腔外でバーを下に向けて空回しして、外れないか」を確認することです。
また、患者に対しても、「器具が口腔内に落下した時には、急に起き上がらないこと」、「スタッフの指示のもと顔を横に向け、口を閉じないこと」などを事前に説明しておくことです。
さらに、処置時はラバーダムを使用すること、そして口腔内にバーが落下した際は、直ちに患者の顔を横に向け、目視で確認できる場合には、バキュームで吸引すること、摩耗や汚れによりエアタービンのチャックの把持力が低下していないか、定期的に点検に出すことなども提言されています。
裁判例
歯科医の治療中に異物が患者の口腔内に落下する等して、患者が損害を被った医療事故は少なからず報告されています。
例えば、浦和地裁熊谷支部平成2年9月25日判決は、幼児に対する抜歯治療の際に、抜歯された歯牙が気道を閉塞して窒息しさせた事案において、歯科医師の過失を認めています。
同判決は「口腔内に異物を落下させた場合、まず気道閉塞が生じていないかどうかを速やかに確認しまだ気道閉塞が生じるまでに至っていないときは、水平位診療であれば、患者を横にしたまま顔を横に向かせ、口腔内の異物の位置を確認した上、鉗子等で取り去るという措置を講じ、もって、気道閉塞に至ることのないように処置する方途を取るべきである」と指摘した上、「然るに被告は、かえってその挙に出てはならないとされているところの患者を水平位から起こす措置を採ったのであり、これは右の歯科医療水準からみて、診療上尽くすべき注意義務に違反している」と認定したものです。
関連情報
医療ミス・医療過誤の法律相談(古賀克重法律事務所)
歯科ヒヤリ・ハット 第1回報告書
歯科ヒヤリ・ハット事例検索
歯科ヒヤリ・ハット事例収集等事業
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