薬害肝炎全国原告団弁護団と武見敬三厚生労働大臣との大臣協議を開催
目次
武見敬三厚労大臣との大臣協議を開催
2024年7月26日、2024年度の薬害肝炎全国原告団弁護団と厚生労働大臣との間の大臣協議が厚生労働省で開催されました。
大臣協議は平成19年度に始まり今回で18年度目になります(過去の大臣協議のレポートは末尾の「関連記事」も参照してください)。
毎年、「被害救済」「薬害の再発防止」「恒久対策(C型肝炎治療体制の整備等)」の3分野の課題について、薬害肝炎全国原告団弁護団が厚生労働大臣に対して、直接回答を求め、課題解決を図っていくという重要な協議会です。
薬害肝炎全国弁護団が5地裁判決をてこに全面解決を求め、2008年1月15日、国との間で基本合意書を締結しました。基本合意書は、「国(厚生労働省)は、原告・弁護団と継続的に協議する場を設定する」と定めており、かかる合意に基づいて開催されるものです。私達はこの協議会を「大臣協議」と称して、年間活動の重要テーマに位置付けています。
全国から原告団弁護団が厚生労働省に集結するとともにオンラインからも参加。
大臣協議におけるオンライン活用はコロナ禍をきっかけに導入され、早いもので既に5度目になっています。
及川新代表からの挨拶
まず、2024年5月に薬害肝炎全国原告団の代表に就任した及川綾子さんが挨拶して、大臣協議が開始しました。
「私は2007年、薬害肝炎問題が全面解決に向けて全国展開している時、やっとフィブリノゲン投与が分かり、提訴にこぎつけた原告になる。出産から投与が分かるまで20年かかった。なかなかウイルス排除ができず、25年もの闘病生活を送った。」
「原告は皆、もっと苦しい思いをして今に至っている。私たち薬害肝炎全国原告団は、薬害の被害者のため、また全肝炎患者のために20年近く活動をしてきた。決して自分たちの利益のためではない。私たちの活動の原点は怒りである。命を軽んじていることに対する怒りである。一人残らず薬害肝炎被害者を救済したいという思い、二度と薬害を起こしてはならないという思い、そして肝炎患者の肝炎対策を早急に進めてほしいという思いである」
「今日は大臣協議のためだけの大臣の言葉ではなくて、大臣の本心からの意気込み、お考えをお聞きしたい」
恒久対策~SVR後の定期検査
恒久対策のテーマとしては2つを取り上げました。
一つ目は、SVR後の重症化予防推進事業の利用者が増えない原因について、国が究明を進めてほしいということです。
SVRとはウイルス学的著効を意味し、ウイルスが体内から排除されて血液検査でマイナスになることです。SVRになっても肝硬変・肝がんに進展してしまう患者もおり、定期検査がとても重要になっているのです。
SVR後の定期検査については、助成が少なく、利用者が増えないという不満が出ています。そこで、今年初めて、大臣協議で取り上げることとしたもの。
名古屋原告17番さんが利用の現状・問題点について直接、大臣に訴えました。
武見大臣は、「増加傾向にないことは事実だと思う。このために、肝疾患連携拠点病院などに対して、C型肝炎ウイルス排除後の定期検査の必要性について周知していただくよう依頼するとともに、厚生労働科学研究にて、実際にどのような方々がこうした申請をして定期検診をしているのか、またしていないのか等について、実態調査を開始している」と回答しました。
また、申請手続の簡素化についても、武見大臣は、例えば診断書の重複が不要となるよう対策を確実に行っていくため、簡素化を図っているところであると回答しました。
恒久対策~差別・偏見の解消
二つ目は、偏見差別への対策についてです。
国に対し、ウィルス性肝炎、感染症の患者への差別解消のための取り組みを求めるもの。正確な知識を提供するにとどまらず、感染症教育を国が主体となって取り組むべきであると要求しました。
3年前の大臣協議から議題としているテーマです。
薬害肝炎九州原告団代表であり、全国恒久対策班の班長である出田妙子さんが以下のように訴えました。
「過去の大臣協議では、歴代大臣も同じ問題意識を共有し、肝炎だけではなく、感染症全体を視野に入れた取り組みが必要であると指針に明記した。ところが、先日の厚労省担当者との作業部会では、肝炎以外の感染症に取り組むことは肝炎対策室の範疇ではないという回答が何度も繰り返され、私たちは大変落胆した。この1年間なんら進展がないばかりか、作業部会での回答は明らかに後退したものであって、私たちは全く納得できない」
武見大臣は、「肝炎患者に対する偏見・差別、これはまずあってはならないことである。厚生労働科学研究においても、肝炎患者等に対する差別や偏見の問題に取り組み、研究班が設置されている。厚生労働省としては研究班の成果および活用方法に対する意見を含め意見を伺いながら、文部科学省とも相談を進めていきたい」と回答しました。
出田さんは、重ねて、「大きな視野に立って考えていただきたいと思う。最初に質問したように、肝炎問題ではなくて、感染症全体を視野に入れた取り組みが必要だと大臣は考えますか」と尋ねました。
これに対して、武見大臣は、「そうした考え方を持つから、この研究班の在り方を私も述べさせていただいてるわけである。その上で、厚生科学研究の成果に対する患者団体の皆さん方の、特に具体的なご意見をちゃんとよく聞いて、そしてそれを踏まえて実際に進めていくということが必要だろうと考えている。厚労省事務方にもそうした指示を出しておきたい」と回答しました。
最後に出田さんから、「最後になりますが、指針の改定からもう既に2年半が経過したが、私たちは感染症教育が何も始まっていないと考えている。厚生労働省の責務として、指針に沿った具体的な方策を検討し、実現に向け早急に動いていただきたい」とくぎを刺してこのテーマについての議論が終わりました。
個別救済~カルテ調査と再告知
個別救済については、前全国原告団代表の浅倉さんから、救済法の請求期限である2028年1月まで、あと3年半しかない。請求期限までに被害者救済を完了するため、考え得るあらゆる手段を取ることを約束して頂きたいと大臣に迫りました。
武見大臣は、「カルテ調査について、引き続き医療機関に対応を促しつつ、厚生労働省自身が主体となった委託調査によって、2025年3月を目途にその終了を目指している。また、製剤投与の可能性が判明したが所在不明で連絡が付かない方に対する住民票調査についても、自力で行う医療機関に対する支援であるとか、厚生労働省の委託事業によって、2026年3月を目途に終了を目指すしている」と回答しました。
続いて浅倉さんから、通知を受けてもなかなか弁護団に繋がらない人がいる具体例を説明した上、一度告知した人に対しても放置せずに請求期限までに可能な対策を講じて欲しいと訴えました。
これに対して、武見大臣は、分かりやすい告知文について検討するとともに、再告知についてもしっかり対応していきたいという前向きな回答がありました。
さらに、伊藤弁護士から、所在不明者について令和6年3月末現在で約7500人いるとされている。7500人が一般広報を目にするか疑問なところもある。そこで、所在不明だった患者がいる医療機関については、医療機関名の公表を検討して頂きたいと申し入れました。
これに対して武見大臣は、提案の方法を含め、あらゆる方法を用いて周知・広報を徹底し、一人でも多くの方の救済につながるよう全力を尽くしたいという回答しました。
再発防止~薬害資料館に向けて
再発防止については、東京原告団の泉さんから、最終提言の1つの柱である薬害研究資料館についての具体的な道筋、そして、評価・監視委員会における海外調査の活用について意見を求めました。
ここでは薬害肝炎全国原告団が力を入れている薬害研究資料館についての協議について報告します。
武見大臣は、「昨年8月に薬害被害者団体の皆さんが中心となり、一般社団法人薬害研究資料館が設立されたことを踏まえて、令和6年度予算において、薬害資料管理等法人活動支援事業を新設をいたしました。新法人の継続的かつ安定的な運営に向け、来年度以降の予算の確保にも全力で取り組みます。」と回答しました。
さらに、武見大臣は、「薬害研究資料館については、これまでの大臣が述べてきたとおり、国が主体的に取り組む立場であると認識しております。予算確保だけではなくて、新法人と密に連携し、資料館設置に向けた具体的な検討をスピード感を持って進める。その際には薬害被害者団体のさまざまな意見があることも十分に踏まえながら、資料館が被害者の皆さんの意向に沿ったものになるよう、互いに努力を進めていきたい」と回答しました。
続いて、薬害研究資料館の理事をしている大阪原告団の武田さんから、来年度以降、具体的にどのように取り組んでいくのかを尋ねました。
武見大臣は、新法人と密に連携して、資料館設置に向けた具体的な検討をし、スピード感を持って進めたい、と回答しました。その上で、武見大臣は、厚生労働省として想定している当面の活動としては、厚生労働科学研究班において、一時的に管理している薬害関連資料について、新法人が保管場所の契約を行い、資料の所有権を持つ各団体から新法人に所有権の移転を済ませ、準備が整い次第管理を移行することが必要であると考えていると回答しました。
最後に武田さんから、スピード感を持って対応したいというが、それが言葉だけで終わらないためには、事業を示した計画が大切である。そのようなロードマップを作製して欲しいと繰り返し申し入れて再発防止の分野の協議は終わりました。
2024年大臣協議のまとめ
及川さんが全国原告団代表に就任して最初の大臣協議でした。全国弁護団の山西弁護士からも、協議終了後の集会で、「及川新代表のデビュー戦。山口元代表、浅倉前代表に劣らない堂々した発言ですばらしかったと思います。これからもよろしくお願いしいたい」という感謝の言葉がありました。
及川さんは入念に事前準備をして、武見大臣に対しては、事前に代表就任の挨拶状を送り、ホームページに記載してあるこれまでの経過や原告団の今後の課題などを記載していました。協議後、大臣からは、「挨拶状も添付文書も全て読みました」という言葉があったそうです。
これからも引き続き大臣協議が単なるセレモニーに終わらないように、恒久対策、被害救済、再発防止の分野において協議を具体的に進めていきたいと思います。
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