愛知県一宮市立市民病院に7500万円の賠償命令、カニューレの自宅での療養指導不十分で死亡
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愛知県の一宮市立市民病院に7500万円の賠償命令
愛知県の一宮市立市民病院を退院した女児が窒息状態になり、意識を回復しないまま3歳で死亡した事案において、名古屋高裁は、医療器具の使用方法に関する適切な指導を怠った過失を認めて、約7500万円の支払いを命じました。
女児は咽頭軟化症と診断され、気管切開手術を受け人工呼吸のためカニューレを装着していました。
ところが退院翌日、女児が寝返りをした際に人工呼吸の回路が外れ、低酸素脳症となり、意識が戻らないまま死亡したという事故です。
名古屋高裁は、入院中にも医療器具に関係する事故が3回あったことを指摘して、病院は退院後に自宅でも事故が起きる可能性を予想できたと認定しました。その上で、両親は医師の助言がなければ器具交換さえ満足にできない状態だったとして「療養指導義務を履行したとは言えない」と判断したものです。
なお市は最高裁に上告しています。
カニューレの医療事故
カニューレ(cannula)とは導管に挿入するチューブのことをいいます。
そのうち、気管切開部から気管に挿入して気道を確保するチューブは、気管カニューレと呼ばれます。以前は金属カニューレが使われていましたが,現在は組織傷害の少ないポリ塩化ビニルやシリコン製が使用されています。
気管切開後にカニューレが逸脱する事故は頻繁に起こっており、ヒヤリ・ハット報告も多い分野です。
気管切開後の早期なのか、長期療養患者なのか、患者の年齢、施設の体制等によっても様々な対応が求められています。
本件は、病院内ではなく退院後に自宅で発生した点に特徴があります。
裁判所は、退院前に院内で3度のカニューレ事故が起きていたことから、病院としても十分に予見できたという判断に傾いたものと思われます。
“医師は指導義務怠る” 1審と逆 市に賠償命令 名古屋高裁
気道を確保するための器具を装着していた生後6か月の赤ちゃんが、愛知県の一宮市立市民病院を退院した後に亡くなったのは、病院側の療養指導が不十分だったからだなどとして両親が市に賠償を求めた裁判で、2審の名古屋高等裁判所は「医師には両親らを指導する義務があったのに怠った」などと指摘し、1審とは逆に、市におよそ7500万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。
6年前、のどの組織が弱く、気管が狭くなったりふさがってしまったりする病気で気道を確保するための「カニューレ」という器具を装着していた生後6か月の赤ちゃんが、一宮市立市民病院を退院した翌日に低酸素脳症で意識が戻らなくなり、その後、3歳で死亡しました。
2024年4月18日付NHK
両親は、赤ちゃんが亡くなったのは病院側の自宅での療養指導が不十分だったからだなどと主張し、一宮市におよそ1億1200万円の賠償を求める訴えを起こしました。
18日の2審の判決で、名古屋高等裁判所の長谷川恭弘裁判長は「赤ちゃんの入院中、『カニューレ』に関する事故が3回起きていて、医師は事故が今後も起こりうることを伝え、予防方法や、事故が起こった場合の対処方法について両親らを指導する義務があったのに怠った」などと指摘し、訴えを退けた1審とは逆に、市におよそ7500万円の支払いを命じました。
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