静岡がんセンターが4000万円で示談、70代患者が腸閉塞手術後に誤嚥性肺炎を発症して死亡
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静岡がんセンターが4000万円で遺族と示談
2022年、静岡がんセンターが、当時70代の患者に対して緊急腸閉塞の手術後に、患者が誤嚥性肺炎、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を発症して死亡した医療事故で、遺族と4000万円で示談しました。
患者(70代・男性)にはS状結腸がん・食道がんの治療を受け、胃管再建術の既往歴がありました。
2022年9月、患者は癒着性の腸閉塞の診断を受け、緊急手術となりました。
手術前の全身麻酔の際、患者が嘔吐したため。口腔内を吸引し吐物が残存していないこと等から、静岡がんセンターは手術開始は可能と判断して、予定通り手術を実施しました。
ところが、肺の中に胃液など嘔吐物が残存していたため、患者は手術後、誤嚥性肺炎、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を発症し、翌日、重度の呼吸不全で死亡したものです。
静岡がんセンターは、臨時手術だったため事前に麻酔方法について議論せず麻酔科の判断にゆだねられたこと、内視鏡による確認をせずに、気管に嘔吐物が入っていないと判断を誤って手術を行ったことに問題があったと判断して、遺族と4000万円で示談したというものです。
腸閉塞とは
腸閉塞とは、さまざまな原因により腸管内容物の肛門側への通過障害が生じることで、腹部膨満感、腹痛、嘔吐などをきたす病態です。
特に腸管に器質的な原因を有し、明らかな閉塞や狭窄が認められるものをいいます。
うち、「単純性腸閉塞」とは、腸管内腔は狭窄または閉塞していますが、血行障害を伴わないものをいいます。
再発防止策
静岡がんセンターは、以下の再発防止策を掲げています。
まず、腸閉塞における麻酔導入方法については、個人の判断ではなく麻酔科カンファレンスで検討して記録に残すということです。そして、緊急手術であっても手術直前の患者の状態を鑑みて、担当外科医師と相談し麻酔科医師が判断するというものです。
また、食道がん術後や胃全摘後など逆流のリスクが高い患者の腸閉塞手術の際には、迅速導入気管挿管や輪状軟骨の圧迫を行うことです。
さらに、麻酔導入時に患者が嘔吐をした場合には、気管支鏡で誤嚥の有無を確認することなどです。
腸閉塞に関する裁判例
腸閉塞についての医療事故は相談の多い類型ですが、本件のように、麻酔方法や嘔吐後の確認が不十分だったケースは比較的珍しい事故になります。
私が担当した事案では、腹痛を訴え病院に救急搬入された患者が絞扼性イレウスで死亡し、医師が絞扼性イレウスを見落とした過失があったとして、福岡地裁で3500万円の和解が成立したものなどがあります。
静岡県立静岡がんセンター(長泉町)は13日、2022年9月に静岡県東部の70代男性患者を手術した際、男性が誤嚥(ごえん)性肺炎を起こし死亡する医療事故があったと正式に発表した。遺族側に和解金4千万円を支払うことで合意した。
県庁で記者会見した病院長は、複数の判断ミスが重なったことを認めた上で「心よりご冥福を申し上げるとともに、多大な心痛をおかけしたご家族には深くおわびする」と述べた。再発防止策として、緊急手術でも麻酔科医が担当の外科医と相談すること、麻酔導入時に嘔吐した場合は内視鏡で誤嚥の有無を確認することなどを示した。
6月14日付静岡新聞
関連情報
絞扼性イレウス見落としの過失による死亡について福岡地裁での和解事案(古賀克重法律事務所実績)
腸閉塞の手術後に誤嚥性肺炎、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を発症し、 死亡された医療事故のお詫びとご報告(静岡がんセンター)
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