歯科ヒヤリ・ハット事例の第1回報告書が初公表、日本医療機能評価機構が2023年10月から収集開始
目次
歯科ヒヤリ・ハット事例の収集へ
日本医療機能評価機構が2004年に医療事故の情報収集事業を開始して20年経過しました。
歯科部門のある医療機関も情報収集事業に参加していましたが、歯科に関する報告事例は多くありませんでした。
そこで、日本医療機能評価機構が、「歯科ヒヤリ・ハット事例収集等事業」を創設して、2023年10月から歯科診療所のヒヤリ・ハット事例を収集することになりました。
収集した事例については、「報告書」として公表されるほか、「歯科ヒヤリ・ハット事例検索」も可能になります。
歯科のみのヒヤリハット事例の収集を行うことを通じて、多数の事例報告と再発防止策の共有が期待されています。
歯科ヒヤリ・ハット事例第1回報告書
その第1回報告書が2024年4月、公表されました。対象期間は2023年10月から同年12月分になります。
開始して3か月ですが、事業参加歯科診療所は225になっています。
報告件数は27件。患者年齢としては50代8件、40代7件、30代5件、20代と70代が3件、90歳以上が1件でした。
事例の概要としては、「歯科治療・処置」が11件(40・7パーセント)と一番多くなっています。
その他、「薬剤・処方」が5件(18・5パーセント)、「医療機器(機械・器具)」が4件(14・8パーセント)、「歯科技工」が3件(11・1パーセント)となっています。
具体的なヒヤリハット事例の内容も報告されていますので、いくつかご紹介しましょう。
具体的なヒヤリハット事例(器具の口腔内落下・誤飲)
歯科医師が根管治療中にファイルを患者の口腔内に落としたため、直ちに取り出そうとしましたが、患者が嘔吐反射を起こして誤飲してしまったという事例が報告されています。
患者は息苦しさを感じなかったが、誤飲直後は咽頭のあたりに、その後は胃のあたりに違和感がありました。パノラマX線撮影を行い、ファイルが存在しないことを確認し、他院の緊急外来に診察を依頼し、内視鏡を使ってファイルを摘出することができたという事案です。。
歯科診療所の改善策としては、「口腔内に器具が落下した場合は、器具がある側に顔を傾け、早急に取り出す」ことが指摘されています。
具体的なヒヤリハット事例(補綴物の選択間違い)
歯科医師が左上6番に全部金属冠を装着する際、患者の口腔内を確認したところ、左上5番がポンティックであることに気が付きました。そこで患者に装着する補綴物は、クラウンではなくブリッジにするべきであることが分かったという事案も報告されています。
歯科医は患者に説明し、改めてブリッジとして治療することにして事故を回避しました。
背景・要因としては、「カルテ、X線画像の確認や目視による確認を怠った」、「忙しい時間帯であった」ことがあげられています。
歯科診療所の改善策としては、「どのような時でも、治療歯の隣在及び対合の状態を冷静に、慎重に確認する」ことが指摘されています。
具体的なヒヤリハット事例(処方時の薬剤変更忘れ)
歯科医師が抜髄処置をすることとなり、浸潤麻酔を行いました。待ち時間にロキソニンを処方するため入力しましたが、処置後、患者がカロナールを希望したという事案が報告されています。
カロナール希望について入力変更を忘れてしまい、カルテにも記載していなかったため、そのままロキソニンを交付してしまったという事案です。
歯科診療所が考えた改善策としては、「事前に入力する際は一時保存にしておき、処置が終わってから登録する」、「薬剤の内容をカルテにも記載する」ことが指摘されています。
関連情報
医療ミス・医療過誤の法律相談(古賀克重法律事務所)
歯科ヒヤリ・ハット 第1回報告書
歯科ヒヤリ・ハット事例検索
歯科ヒヤリ・ハット事例収集等事業
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