頸椎後方固定術で挿入されたスクリュー抜去・再挿入術後に患者が四肢麻痺となり、スクリュー刺入方向を誤った過失が認められた事例、判例タイムズ1509号
目次
事案の概要
自宅階段から転落した患者(男性・当時80歳)が医療機関において、頸椎後方固定術(C3~C7)を受けました。ところが、術後CT検査でスクリューの大部分が脊柱管内に逸脱し、骨への固定性が得られていなかったため、スクリューの抜去・再挿入術を受けることになり、その後四肢麻痺となり、転院先の病院で心不全により死亡したという事案です。
患者の相続人が、診療契約上の債務不履行又は不法行為(使用者責任)に基づき、損害賠償を求めた事案です(判例タイムズ1509号156頁)。
大阪地方裁判所は医療機関に対して、約4405万円の支払いを命じました(控訴)。
裁判所の判断
大阪地方裁判所は、まず第1手術の際にスクリューの刺入方向を誤ったとの原告の主張について、以下の通り判断しました。
第1手術において挿入されたスクリューのうち、C4の左右及びC5の左に挿入された各外側塊スクリューは、いずれもスクリューの大部分が脊柱管内に逸脱し、骨への固定性が得られておらず、挿入のし直しを要するものであり、外側塊スクリューは、一般的には外側塊の中央を挿入ポイントとするところ、第1手術でC4とC5に挿入されたスクリューは、いずれも明らかに挿入ポイントが内側で、かつ挿入角度も明らかに内側に向いていて、大きな逸脱であり、基本手技に従っていないと評価されるものと認められるなどとして、執刀医の過失を認めました。
そして、第1手術においてC4の左右及びC5の左の各外側塊スクリューの刺入方向を誤らなければ、第2手術が行われることはなく、したがって、C5椎体の過矯正及びC5椎弓の前方への押しによる脊柱管狭窄及び脊髄圧迫を生じさせることもなかったとして、上記過失と本件患者の四肢麻痺との間の因果関係を認めました。
ポイント
本件はいわゆる「手技上の過失」が問題となった事案です。
患者側が手技上の過失を主張する場合、具体的な注意義務の内容をいかに特定していくかがポイントになります。その上で、そもそも手技に関する医学的評価が困難な事案が少なくありません。本件においても、手技に関する医学的な評価が問題となっており、鑑定が実施されています。
本件は第1手術の後に第2手術が行われたという特殊性がありましたが、脊椎手術においては医師の裁量は比較的広く認められています。
そのため医師の責任を否定した裁判例も少なくありません。手技上の過失は否定しつつ説明義務違反を認めた裁判例もあります。
手技上の過失は患者に重大な結果(悪しき結果)が生じていることも多いため、患者・家族は「医療ミスで間違いない」という思いで相談に来る方が多いのが実情です。
しかしながら手術の成功・不成功という結果自体は過失ではありません。
患者側は、「その手技によって患者に損傷が生じたといえるのか」、その上で、「損傷を生じさせたことに過失が認められるか」という2点を意識して立証する必要があり、困難を伴うことも少なくないのです。その意味において手技上の過失を問うケースは、不作為を問うケース以上に難しく、事案に応じて専門家の援助をうけながら検討することが必要不可欠になってくる類型といえるでしょう。
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