ATLシンポ「知ってください!HTLV1のこと」
6月5日、ATLシンポが福岡市天神エルガーラホールにて開催されました。
患者団体「日本からHTLV1ウイルスをなくす会」が主催したのですが、この手のシンポジウムとしては異例の300名が参加。
KTS鹿児島テレビのアナウンサーであり自らも感染者でもある山本慎一さんの司会のもと、私も含めた7名のパネリスト(患者会の代表理事である菅付加代子さん、聖マリアンナ医科大難病治療研究センターの山野嘉久准教授、厚生労働省がん医療専門官の林昇甫さん、B型肝炎訴訟を支援する福岡大学生の満田祥子さん、毎日新聞社東京本社記者の高橋咲子さん、西日本新聞でATL問題取材班の坂本信博さん)が意見交換を行いました。
西日本新聞のシンポ特集から一部抜粋します。
菅付 HAMを発症して20年。車いすで生活している。寝たきりになって亡くなっていく仲間を見てきた。同じウイルスから起きるATLも過酷な病気で、知り合った人たちをたくさん失った。「どうして国は放っておくんだろう」と憤りを感じ、活動をしている。
古賀 菅付さんとの出会いは「HTLV1の対策に国の責任はないのだろうか」とメールをいただいたことだった。確かに行政のいろんな問題がからんでいる。
林 「国の責任」という言葉に心が痛い。2009年度に始まった「HTLV1感染総合対策に関する有識者会議」で菅付さんと知り合い、なんとか思いに応えることができないだろうかと考えてきた。今日は針のむしろに座ることを覚悟してあえて来た。
坂本 ATLを知ったのは10年ほど前。長崎県の離島に特有の白血病と聞き、取材をしようとしたが、行政の職員から「地域差別につながる恐れがあるので記事にしないで」と言われた。
今回あらためて取材をし、1990年度に当時の厚生省の研究班が「感染者は自然と減るので全国一律の対策は不要」と提言し、国も九州・沖縄の風土病と判断して対策を自治体に任せたことや、この20年間に2万人がATLで亡くなったこと、感染者が全国に拡散していることを知り、キャンペーン報道を始めた。高橋 鹿児島支局に勤務していた2003年、地元紙が菅付さんがHAM患者の会を立ち上げると報じた。デスクに「君が大変な問題だと思えば記事にせよ」と背中を押されてから、取材に取り組んでいる。
山本 1988年に妻が最初の娘を身ごもったとき、HTLV1に感染していることが分かり、私自身も3年前に感染が分かった。長年取材に取り組んでいるが、なかなか知られていない。
そしてシンポジウムの後半は、地方自治体・国の支援のあり方が議論されました。
山野 検査費の公費負担があるのは、九州では長崎、鹿児島、宮崎、大分の4県。医療機関が検査をしているといっても、有料だったらしない妊婦もいる。
HTLV1関連疾患の研究費は、同じウイルス感染症であるエイズ(後天性免疫不全症候群)やC型肝炎と比べると少ない。ぜひ増やしてもらいたい。林 私は厚労省のがん対策室におり、血液のがんであるATLの研究について紹介する。本年度は、骨髄移植が受けられる年齢を広げるために、体への負担が少ない「ミニ移植」の臨床試験を全国に広げ、臍帯血(さいたいけつ)からの移植も研究を始める。
坂本 福岡県の古賀市は6月から、母子健康手帳を交付する際に、HTLV1やATLのことを知らせる手作りのチラシを渡し始めた。かかった費用はほぼゼロ。検査費の公費負担も大切だが、小さな工夫でできることがある。
会場から(江田康幸衆院議員) 母子感染を防ぐための検査の費用負担、感染が分かった人の支援、発症予防や治療法の研究推進と、総合的な対策が重要だ。
満田 B型肝炎の患者が「身近な人には心配させたくない」「他人の偏見が怖い」という理由で結局、誰にも相談できないとおっしゃっていた。でも話すことで救われることもある。このウイルスをまず私たちが知ることが、支援の第一歩と思う。
古賀 最後に法的な視点を二つ提供したい。HTLV1は80年に発見され、日本で献血された血液に検査が行われるようになったのは86年。輸血感染を起こしたと考えられるこの5年間は果たして良かったのか。また90年に国が対策をとれば、どれだけ被害を抑えられたか。国が放置した結果責任はあるだろう。訴訟をせずとも、国は動く必要がある。
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