自賠責13級認定の左5指機能障害で10級主張された交通事故で後遺障害否認した判決、自保ジャーナル2135号
目次
自保ジャーナル2135号97頁の紹介
私が担当した交通事故訴訟の判決(大阪地裁令和4年7月1日)が、判例雑誌である自保ジャーナル(2135号97頁)に掲載されましたのでご紹介します。
自保ジャーナルは交通事故訴訟に特化した雑誌です。私は定期購読し毎回全ての判例に目を通し参考になるものはメモを残したり、担当事案と紐づけたりして利用しています。
本件は、私は加害者側(被告)から依頼を受けて、訴訟を対応しました。
事案の概要
原告(70代女性)は、片側1車線道路を自転車を押して歩行横断中、右方から進行してきた被告運転の普通乗用車に衝突され、中心性脊髄損傷、外傷性脳出血、左中手骨骨折、左手指関節拘縮等の傷害を負い、約2年4カ月間通院しました。
原告は自賠責から13級認定を受け、さらに左第5指機能障害の他、左第2指から第4指の関節可動域制限、左母指の関節可動域制限、左肩関節周囲炎及び左肘関節炎等から10級後遺障害を残したと主張し、既払金を控除し約1936万円を求めて大阪地方裁判所に訴訟を提起したものです。
当方は、10級後遺障害は否認するとともに、自賠責認定の13級も認められないと主張しました。
裁判所は、当方主張を採用し、本件事故に起因する後遺障害の残存を全て否認し、約1936万円の請求に対して約15万(入通院慰謝料・物的損害の未払分)のみ認容したものです。
裁判所の判断
まず、大阪地方裁判所は、自賠責が13級認定していた左第5指について、以下の通り判断して後遺障害を否認しました。
「原告は、平成30年8月22日の後遺障害診断の結果に基づき、左第5指PIP関節に健側(右第5指)の1/2以下の可動域制限を残したとして、その可動域制限の後遺障害が後遺障害等級13級に該当する旨の認定を受けている」が、「原告の左第5指PIP関節の可動域は、平成28年10月26日時点で85度であり、健側の1/2以下に制限されていたとは認められず、平成29年2月25日に整形外科で計測された関節可動域の計測結果が直ちに信頼できないことや、同日以降の左手指の関節可動域制限が本件事故に起因するものと認められない」ことから、「本件事故に起因する左第5指PIP関節の可動域制限の有無については、平成28年10月29日(症状固定日)時点の関節可動域をもって判断するのが相当であり、その時点の関節可動域が健側1/2以下に制限されていなかったことは上記判示のとおりであるから、原告の左第5指PIP関節に関節可動域制限の後遺障害が残存したと認めることはできない」
また、左第2指から第4指については、原告は、「左第2指から第4指についても関節可動域制限が生じているため後遺障害を認めるべきである」と主張しました。
しかし、裁判所は、「左手指の関節可動域制限の有無については平成28年10月29日時点の関節可動域をもって判断するのが相当である」とし、「その時点で原告の左第2から第4指の各関節については健側(右手指)とほぼ同程度の関節可動域が得られていたと認められ、原告の左第2から第4指に関節可動域制限の後遺障害が残存したとは認められない」として、左第2指から第4指の後遺障害の残存を否認しました。
なお、休業損害については、原告は、「本件事故当時、原告が家事従事者及び農業従事者であったとして休業損害が生じた」と主張しました。
しかし、裁判所は、「原告に所得は雑所得と不動産所得のみで農業所得がなく、対価性のある労働として原告が農業に従事していたと認めるには足りない」他、「原告は独り暮らしであって、近隣に息子夫婦や娘が居住しているというものの、それらの親族のための家事を原告が担っていたと認めるに足りる証拠はなく、原告を家事従事者と評価することもできない」として、「原告は本件事故により入通院をしているものの、そのために農業従事者又は家事従事者としての休業損害が生じたとは認められない」と休業損害の発生も否認したものです。
訴訟の経緯とポイント
当方において、文書送付嘱託申立にて原告の診療録(カルテ)を取り寄せて、入念に分析して反論しました。またその過程では専門医に意見を求めて主張に反映させていきました。
保険会社からの依頼事案では専門医意見書を提出することが少なくありませんが、専門医意見書は玉石混交です。
私の場合は、専門医意見書の提出だけでなく、医療過誤事案で知己をえた専門医にも個別意見を求めて主張に反映するよう心掛けています。
本件は、自賠責において13級認定であったものの、それを超える10級を主張されていました。
しかしながら、カルテを取り寄せて専門医の意見とともに分析すると、むしろ矛盾する記載が多く見受けられ、自賠責の13級認定にも疑義が生じたため強く主張していったものです。
自賠責保険による後遺障害認定判断が訴訟では必ずしも維持されるとは限らない好例であると思いますので参考にして頂ければと思います。
自保ジャーナルに掲載された担当した交通事故訴訟
・弁護士費用特約の弁護士報酬が争点となった裁判例、自保ジャーナル2074号
・追突事故によって後遺障害を負ったと主張された事案で後遺障害を否認した裁判例、自保ジャーナル2076号
・自保ジャーナル2070号、担当した交通事故訴訟判決の解説
関連情報
・古賀克重法律事務所・交通事故専門サイト
・古賀克重法律事務所・交通事故
・自保ジャーナル