日弁連会長選挙の争点 ~訴状を書けない弁護士~
日本弁護士連合会の会長選挙が1月6日公示され、東京弁護士会所属の宇都宮健児弁護士と山本剛嗣弁護士が立候補しました。
今回の選挙は、東京弁護士会の会長経験者であり、歴代の日弁連執行部が推薦する山本弁護士に対して、消費者問題、特にサラ金問題の草分け的存在で知名度も高い宇都宮弁護士が挑むという構造。
派閥均衡・順送りで会長を選んできた日弁連が「チェンジできるか」という、象徴的な選挙といえそうです。
「チェンジ」という興味深い点以外では、大きな論点の一つとして、「法曹人口」、つまり司法試験合格者数の見直し問題があげられます。
昨日、読売新聞が次のように報道しました。
司法試験、年3000人合格の目標を下方修正へ
政府は、司法試験の年間合格者を「2010年ごろに3000人に増やす」という計画を下方修正する方向で見直す方針を固めた。
無理に実現を目指せば、法曹界の質が低下しかねないためだ。法務、文部科学両省が今春にも有識者会議を設置し、適正な合格者数の検討を始める予定だ。
「3000人計画」は02年3月に閣議決定され、裁判員制度の導入とともに司法制度改革の柱の一つとなっている。法務省の司法試験委員会は毎年、合格者数の目標を設定し、段階的な増員を図っている。06年に1009人だった旧司法試験を除く合格者は08年には2065人と倍増したが、09年は2043人と頭打ちになっている。これ以上のペースで合格者数を増やすと試験の質や合格最低点を下げることになるため、計画自体を見直すことにした・・・
有識者会議では、適正合格者数のほか、〈1〉法科大学院のカリキュラムの見直し〈2〉成績評価と修了認定の厳格化――などを検討し、11年にも結論を出す。政府は法曹人口の全体数や合格者数の目標を作成し、改めて閣議決定する方針だ(1月5日 読売新聞)
日弁連の司法修習委員会メーリングリストでは、「読売新聞の報道は誤報であり、見直しを前提とした議論は不適切」という情報も流れたようですが、政府の一部で見直しも視野に入れた議論があることは事実のようです。
日弁連の弁護士制度改革推進本部で配布された資料には、新人弁護士の中に、「訴状の書き方がわからない」、「裁判官から何を言いたいのかと指摘される」、「相手方弁護士が示談に応じないと、弁護士会に関与を求める」などの惨状が綴られています。
優秀でやる気のある新人弁護士が多数いる一方で、能力的に疑問符がつく新人も少なからずいることは、法曹会では通説?になりつつあるといって言い過ぎでないように思われます。
このまま無理に年3000人まで合格者を増やせば、さらに質的に問題のある法律家が誕生し(しかもその大半は弁護士になる)、弁護士会自体の信用を失墜する自体になりかねません。
この合格者減の議論に対しては、必ず、「弁護士会の内向きの議論」という反論が出てきます。
ですが、依頼者に実質的な実害を与える現状が少なからず生じているのであれば、それはもう内向きの議論とはいえません。
しかも司法書士など隣接業種による簡裁代理権が広がり、また広告の自由化が進んでいる現状で、「合格者増にブレーキをかけること」と「弁護士・法律家同士が競い合って高品質のサービス提供に努めること」は決して矛盾しません。
今回の会長選挙は絶好の機会ですので、この法曹人口問題に対しても、各候補者は、リップサービスだけではなく本音で、そして実行力を伴う政策を提示した上で、正々堂々と競い合って頂きたいものです。
目次