第210回臨時国会で成立した27法律の概要とは、統一教会、コロナ、そして民法の一部改正
目次
第210回臨時国会で成立した内閣提出の法律
第210回臨時国会(2022年10月3日~2022年12月10日)で成立した法律は下記の通りとなります。
内閣提出法22本のうち21本が成立しました(法案成立率95・5%)。感染が疑われる宿泊客の受け入れ拒否を盛り込んだ「旅館業法改正案」が成立しませんでした。
地方公共団体議会議員・長の選挙期日臨時特例法
最高裁裁判官国民審査法改正
一般職職員給与法改正
特別職職員給与法改正
ガス事業法改正
防衛省職員給与法改正
競馬法改正
港湾法改正
公選法改正
裁判官報酬法改正
検察官俸給法改正
地方交付税法改正
国立研究開発法人情報通信研究機構法・電波法改正
独立行政法人大学改革支援・学位授与機構法改正
感染症法改正
国際テロリスト財産凍結特別措置法改正
障害者総合支援法改正
民法等の一部を改正する法律
民間資金活用公共施設整備促進(PFI)法改正
消費者契約法・国民生活センター法改正
法人等による寄付の不当勧誘防止法
第210回臨時国会で成立した議員立法
議員立法としては、210回臨時国会に18本が提出されて、6本が成立しました。
令和4年度価格高騰緊急支援給付金差し押さえ禁止法
国会議員秘書給与法改正
離島振興法改正
令和4年度出産・子育て応援給付金差し押さえ禁止法
薬害肝炎救済法改正
地方自治法改正
法人等による寄付の不当勧誘防止法
注目すべき法律としては、やはり「法人等による寄付の不当勧誘防止法」でしょう。
「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」にまつわる実情をふまえて、政府が被害者救済のための法案を提出して成立したものです。同法の主な内容は以下の通りです。
まず「寄附の勧誘に関する規制」としては、契約による寄附に加え、契約ではない寄附(単独行為)も対象になりました。
そのほか、寄附の勧誘に際し、不当勧誘行為で寄附者を困惑させることが禁止されました(4条)。借入れ等による資金調達の要求も禁止されています(5条)。
ただし法律の対象となる寄附は、法人や代表者若しくは管理者の定めのある社団・財団に対するものに限定されています(1条、2条など)。
つまり個人への寄付が対象外となっています。例えば宗教法人幹部が個人として受けた寄附が対象外となってしまい、今後実務の運用・被害状況をふまえて見直しの議論も出てくるでしょう。
また、寄附の意思表示の取消しのほか、債権者代位権の行使に関する特例が設けられたのも特徴的です。つまり、被保全債権が扶養義務等に係る定期金債権(婚姻費用、養育費等)である場合、同法及び消費者契約法に基づき寄附(金銭のみ)の取消権、寄附した金銭の返還請求権について、履行期が到来していなくても、債権者代位権の行使を可能としました。
履行期未到来でも行使可能とした点は評価できますが、その他の要件はかなり絞り込まれており、どこまで実効性を持ってくるかは不透明です。
なお法律の運用にあたり、法人等の活動に寄附が果たす役割の重要性に留意し、信教の自由に十分配慮しなければならないとも定められました(12条)。
令和4年度出産・子育て応援給付金差し押さえ禁止法
低所得の子育て世帯への特別給付金について非課税として、差し押さえを禁止する法律です。住宅ローンなどの債務を抱える受給者の手元にも現金が残るように配慮したものです。
出産・子育て応援給付金は、妊娠と出産時に計10万円相当を給付する経済的支援です。
日本が直面する少子化対策・高齢化対策という大きな課題には、今後、所得制限をかけずに分かりやすい制度設計を心掛け、国民に広く浸透させ安心感を与えていくという視点も必要になってくるでしょう。
感染症法改正
改正感染症法は、都道府県が感染症の予防計画を策定した上で、地域の中核となる医療機関と事前に協定を結び、病床や外来医療の確保などを義務づけるものになります。
感染症の発生・拡大時に協定に沿った対応をしない医療機関に対しては、「勧告・指示・公表」を行うことができます。
民間医療機関は、感染対策に協力する責務があると明記されました。
衆議院本会議で新型コロナの感染症法上の位置づけを速やかに検討するなど、付則に修正を加えて採決され成立しました。
民法等の一部を改正する法律
民法改正では、監護・教育における子の人格を尊重して体罰を禁止する旨が明記されました。
821条が、「親権を行う者は、前条の規定による監護及び教育をするに当たっては、子の人格を尊重するとともに、子の年齢及び発達の程度に配慮しなければならず、かつ、体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない。」と定めたものです。
一方、「親権を行う者は・・監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる」という懲戒権は、従前から、しつけと称する児童虐待を招いているのではないかとの根強い批判を受けて削除されました。
また民法は、「離婚後300日以内に生まれた子は離婚前の夫の子」と推定していました。この規定が改正され、離婚後300日以内に生まれた子であっても、生まれるまでに再婚した場合は、「再婚後の夫の子」と推定されることになりました(772条1項)。
妊娠から出生までの間に複数の婚姻をしていた場合には、子の出生の直近の婚姻における夫の子と推定する旨の規定も定められています(772条3項)。
そして、「離婚後100日間は再婚することができない」という規定も撤廃されました。ただし離婚後に子を出生したが再婚しなかったケースでは、子が無戸籍の状態になる可能性は残されており、今後の課題として残っています。
父からの嫡出否認の訴えは、父が子の出生を知った時から3年に伸長されました。
嫡出推定の否認権者は父だけではなく、子及び母にも拡大しました。母の前夫の否認権も新設し、子が自ら否認権を行使するための出訴期間の特例が設けられています。
薬害肝炎救済法改正
薬害肝炎救済法は2008年1月16日に制定されました。同法は5年間の時限立法です。2回延長された結果、給付金の請求期限は2023年1月16日に迫っていたものです。
そこで請求期限が、2028年(令和10年)1月17日までさらに5年間、延長されることになりました。2008年の施行からすると20年間ということになります。
具体的には、救済法5条1号が、「この法律の施行の日から記載して二十年を経過する日」と改正されました。
また劇症肝炎に罹患して死亡した方の給付金の水準についても、慢性C型肝炎が進行した死亡した者と同水準(4000万円)に引き上げることになりました。
具体的には救済法6条1号ロとして、「C型肝炎ウイスるにより劇症肝炎(遅発性肝不全を含む。)に罹患して死亡した者」が追加されることになりました。
詳しくは関連記事を参照ください。
第210回臨時国会で成立した法律の総括
各国会でどのような法律が成立したかを見ると、その時々の世情や社会的問題が浮き彫りになります。国会がどれほど機能したかも一目瞭然になります。
210回国会は、統一教会問題、コロナ、子育てという世間の関心の高い問題について法律が制定する一方、その他については必要最小限の法律が何とか成立したという印象を持ちました。
次の211回通常国会での論戦を通じ、求められる各法律の制定に期待したいところです。
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