追突事故によって後遺障害を負ったと主張された交通事故訴訟で後遺障害・休業損害等を否認した判決、自保ジャーナル2076号
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自保ジャーナル2076号56頁の紹介
私が担当した交通事故訴訟の判決(熊本地裁令和2年2月21日)が、判例雑誌である自保ジャーナル(2076号56頁)に掲載されましたのでご紹介します。
自保ジャーナルとは株式会社自動車保険ジャーナルが発行する交通事故に特化した判例雑誌です。裁判所の推薦等を受けて全国の交通事故訴訟の判決から紹介に値する判決が掲載されています。
各保険会社の担当者や交通事故を専門とする弁護士は必ず目を通す判例集の一つと言えるでしょう。
事案の概要
依頼者が交差点で停止中の車両に追突事故を起こし、相手方が2年3か月に渡って治療を継続した上、約1718万円の支払いを求めて損害賠償訴訟を提起してきた事案です。
相手方は追突事故によって後遺障害12級(左膝痛)、後遺障害14級(頸部痛)の傷害を負ったとして、後遺障害慰謝料として290万円、後遺障害逸失利益として227万円、休業損害として736万円などの支払いを求めました。
当方は、軽微な追突事故にすぎず後遺障害が発生することはないし、長期間にわたる治療期間の必要性・相当性も何らないと全面的に争いました。
裁判所は、当方の主張を採用し、後遺障害の残存を否認した上、治療期間を制限するとともに、休業損害も全額否認したものです。
相手方請求額 1718万4538円
裁判所認定額 75万5335円
訴訟の経緯とポイント
相手方は追突事故被害にあった後、医療機関を転々とし、2年3か月に渡り治療を継続した後に、提訴してきたものです。
また相手方は、医師意見書を提出して、後遺障害の残存を主張し、また2年以上の治療の必要性について医学的根拠があると主張してきました。
これに対して、当方は、診療録を取り寄せて詳細に分析して反論しました。
またSNSを調査し、事故後の治療期間中に、東京のホテルにて開催されたビジネスパーティーに満面の笑顔で出席している写真なども証拠提出しました。
さらに、相手方は無職で主婦であると主張しましたが、診療録に示唆されていた会社経営の事実を調査の上で、反対尋問で追及しました(相手方は結局、関与していると強く推認できる会社経営の実態について明らかにしませんでした)。
相手方本人尋問でも、診療録の記載と主張の矛盾点をかなり時間をかけて反対尋問を実施しました。
以上の審理の結果、熊本地方裁判所は、事故後、7か月以降の治療については、事故との因果関係がないとした上で、後遺障害の残存を否認したものです。さらに、主婦休業損害についても、当方が指摘した会社経営の疑いについて何ら反論がないこと等から、全て否認したものです。
事件を振り返って
昨今、交通事故で治療期間が不必要に遷延化するケースも増えていますが、あまりにひどいケースについては、既往歴含めた診療録の分析、診療録で出てきた事情のさらなる追求、SNSの調査などが功を奏することもある1例といえるでしょう。
車社会の現代だからこそ、交通事故被害については、適正な法的解決が求められています。この理は被害者側ではなく、加害者側も求めるものです。追突事故を起こしたことは一切の責任があるとして、あまりにも長期間な治療を経ていわば過大な請求を受けた場合、加害者やその家族も心理的に追い詰められることになります。
そもそも交通事故の賠償金は、強制保険である自賠責保険や任意保険の保険料から支払われるわけですから、公平な解決が求められます。
その意味で本件はかなり激しく争われた事案でしたが、依頼者も大変喜んでくれてよい解決になりました。
なお相手方は一審判決を不満として控訴しましたが、福岡高等裁判所も一審判決の判断を支持し、一審判決をベースにした和解が成立しました。
自保ジャーナルに掲載されたその他の取扱い事件
・「自保ジャーナル2070号96頁、担当した交通事故訴訟判決の解説」(2020/12/15)