薬害肝炎検証委員会が提言して10年、ついに薬害監視の第三者委員会が発足へ
目次
◆医薬品等行政評価・監視委員会とは
薬害肝炎事件の検証と再発防止のための検証委員会がとりまとめた提言、いわゆる最終提言は、医薬品行政の監視・評価機能を有する第三者機関の設置の必要性を指摘していました。
「医薬品等行政評価・監視委員会(以下「第三者委員会」)」は、この最終提言を受けて、令和元年12月に成立・公布された改正医薬品医療機器法(薬機法)に基づいて設置されることになったものです。
第三者組織設置の提言から実に10年がかかっての設置ということになります。
検証委員会の座長を務めた寺野彰医師は、今回の発足にあたって以下のように率直な所感を述べています(選考委員会議事録)。
「本当は1年の予定だったのですけれども、2年間ですね。あんな委員会は僕も初めてぐらい、毎月3時間半、23回か24回やりましたが、私にとっては非常に勉強になりました。私も大学で消化器を専攻していたものだから、肝炎というのはいいのではないかということと、ちょっと法律をやっておりましたので、その点も含めて選ばれたのだと思うのです」
「選ばれたのはいいのですけれども、その委員会の構成メンバーというのがなかなか大変な構成メンバーで、あのような委員会、厚労省の中に今まであったことがあるのだろうかと思うような委員会だったのです。被害者の方、学者の方、それから法律、弁護士の方とか、そういう方が入られて20人ちょっとで毎回それだけの議論をしたことを、ある意味懐かしく思い出す」
「つまり、行政というのが、2年も検討した組織の実現が10年たってやっとできるということは、一応覚悟はしていたのだけれども、やはり難しいものだなという感じました」
「我々が考えていた第三者委員会というものとそのまま一致しているかどうかはともかくとして、近いものとして今後運営され、肝炎に限らず新しい薬害が出ないような方策を検討されるということです。これは非常にいい委員会になると思います。そうすると、ちょっと大げさでございますけれども、私もあまり後悔しないで安らかにあの世に逝けるかなと思って安心しているのです」
この委員会は、医師、薬剤師、法律家、薬害被害者など、さまざまな立場の委員で構成されています。そして、これらの委員がそれぞれの専門性を活かして医薬品行政を監視し、施策の実施状況を評価します。これにより、医薬品などの安全性の確保や、薬害の再発防止の役割を果たすことが期待されています。
厚生労働省が実施する医薬品行政については、総務省、財務省、独立行政法人評価委員会や総合機構の運営評議会などによる評価が行われている。しかしながら、これらの評価機能には限界があることから、新たに、監視・評価機能を果たすことができる第三者性を有する機関を設置することが必要であり、具体的な在り方は次のとおりと考えられる。
第三者組織は、薬害の発生及び拡大を未然に防止するため、医薬品行政機関とその活動に対して監視及び評価を行う。
第三者機関が薬害の未然防止のための監視・評価活動を効果的かつ公正に行うには、第三者組織は、医薬品規制行政機関や医薬品企業などの利害関係者から「独立性」を保つとともに、医薬品の安全性を独自に評価できるだけの「専門性」を具える必要がある。
また、第三者組織は、薬害が発生する疑いのある段階で、又は発生後に、薬害の発生又は拡大を最小限に食い止めるために、迅速かつ適切な対応及び意思決定をなしうるに十分な「機動性」を発揮できる組織及び運営形態を持っていなければならない(最終提言74頁から75頁)。
◆第三者委員会が所掌する事務とは
第三者委員会の所掌する事務としては下記のものが考えられています。
まず第三者委員会は、医薬品などの安全性の確保に向けた施策の実施状況の評価・監視を行い、必要に応じて安全性の確保などのために講ずべき施策に関する意見や勧告を、厚生労働大臣に対して行うことになります。
また第三者委員会は、関係行政機関の長に対して、「情報収集」、「資料提出」、「意見表明」などの協力を求めることができます。
さらに委員会は、厚生労働大臣の諮問によらず、自ら議題を決めて審議を行うことができます。
◆第三者委員会の委員候補の公表
委員候補について選考委員会が議論してきましたが、この度、委員候補を決定して、厚生労働省が公表しました。
今後、厚生労働大臣が委員の任命を行う予定です。
薬害被害者 花井十伍(全国薬害被害者団体連絡協議会・代表世話人、大阪HIV訴訟原告団)
薬害被害者 泉祐子(全国薬害被害者団体連絡協議会・世話人、薬害肝炎全国原告団)
市民 戸部依子(日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会・消費生活研究所長)
医師 内田信一(東京医科歯科大学医学部附属病院・病院長)
医薬品評価 森豊隆志(東京大学医学部附属病院臨床研究推進センター・教授)
薬剤師 奥田真弘(大阪大学医学部附属病院・薬剤部長)
法律家・倫理専門家 磯部哲(慶應義塾大学大学院法務研究科・教授)
薬剤疫学 佐藤嗣道(東京理科大学薬学部・講師)
医薬品製造技術・品質マネジメントシステム専門家 伊豆津健一(国立医薬品食品衛生研究所・薬品部長)
薬害被害者の一人として、薬害肝炎全国原告団から泉祐子さんが委員になる予定です。選考委員会は、泉さんの選考理由として、以下のように述べています。
「泉氏は、薬害被害者の家族として、「薬害肝炎全国原告団」や「全国薬害被害者団体連絡協議協議会」の世話人を務めるなど、長年にわたり薬害の再発防止や救済活動を続けている。また、「薬害肝炎事件の検証及び再発防止のための医薬品行政のあり方検討委員会」の一員として、医薬品行政を監視する第三者組織の機能やその位置づけ等の議論に参画している。「医薬品等行政評価・監視委員会」創設の端緒となる提言を取りまとめた会の委員の一人である」
◆第三者委員会に求められるもの
寺野座長が嘆息するように、最終提言から設立まで10年以上の時間がかかった第三者委員会。
薬害肝炎全国原告団弁護団も、毎年開催する厚生労働大臣との大臣協議において、立ち上げを求め続けてきました。原弁の活動目標の大きな柱が実現する運びとなり感慨深いものがあります。
今後、最終提言が求める真の「独立性」をもった委員会として個別の課題において力量を発揮できるか、各委員の発言も含めて、その運営を見守っていきたいと思います。
なお2020年9月に開催した加藤厚労大臣との大臣協議において、加藤大臣は、「9月1日に施行なので速やかに委員会を開催したい」「委員会の皆さんがその機能を十分に発揮できるようにご意見も聞きながら予算の確保にも努めたい」と約束しています。
被害者ら委員候補 医薬品行政監視へ
厚生労働省は1日、薬害を防ぐために医薬品行政を監視する第三者組織「医薬品等行政評価・監視委員会」を設けた。9人の委員候補には全国薬害被害者団体連絡協議会の花井十伍(じゅうご)代表世話人といった薬害被害者や医師、薬学の専門家などが選ばれた。近く厚労相が正式に任命する。組織設置の提言から10年かかって設置となった。
委員会は医薬品行政の透明性を高め、重い副作用の発生を防ぐことが目的。医薬品の承認手続きや安全性について定期的に確認、評価し、厚労相に意見を述べることができる。ほかの委員候補は東京医科歯科大学付属病院の内田信一病院長らで、有識者による選考委員会を経て選ばれた。
医薬品行政を監視する第三者組織については、薬害肝炎事件の検証と再発防止を検討する委員会が2010年に設置を提言。国内ではこれまでにサリドマイドやスモン、薬害エイズなどの薬害が起きており、発生や拡大を防ぐ組織が必要とされてきた。組織のあり方について国と薬害肝炎全国原告団との間で折り合いがつかずに協議が続いていたが、昨年成立、今月1日施行の改正医薬品医療機器法で厚労省内に設置することが盛り込まれた。
事務局は医薬品の担当部署と切り離し、省全体の行政を統括する大臣官房に設けられた(2020年9月2日付朝日新聞)。