入院中転倒による頭部打撲は異常なくとも頭部CTを、日本医療安全調査機構が提言9号を公表
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入院中に発生した転倒・転落による頭部外傷に係る死亡事例
入院中に発生した転倒・転落による頭部外傷に係る死亡事例
日本医療安全調査機構が、医療事故の再発防止に向けた提言(第9号)「入院中に発生した転倒・転落による頭部外傷に係る死亡事例の分析」を公表しました。
高齢化社会の到来ととおに入院患者も年々高齢化しており、加齢とともに転倒・転落の危険性も高くなっています。
一般病床における転倒・転落発生率は1日1000床あたり1・5件程度と考えられています。
医療事故調査・支援センターに届けられた転倒・転落に関する死亡事例では、頭部外傷による死亡が最も多くなっています。
今回の分析も以上の現状をふまえたものになります。
集積された事例としては下記のように報告されています。
透析導入目的で入院中の80歳代の患者
・入院5日目の透析時に尿意あり、トイレ誘導。その後、トイレ内壁を背に長座位の状態で発見されましたが、声掛けに反応ありませんでした。後頭部に皮下血腫あるためCTを実施したところ、外傷性くも膜下出血、急性硬膜下血腫、頭蓋骨骨折と診断。救急搬送されましたが翌日死亡したものです。前立腺がん加療中の60歳代の患者。
・深夜、排尿介助時、看護師がそばを離れた後、ベッドサイドに仰臥位で倒れている状態で発見されました。声掛けに反応あり、指示動作は可能でしたが頭痛がありました。2時間後、片足をベッドから落とした状態にて発見され、意識レベルの低下がありました。その30分後にCT実施したところ、右硬膜下血腫、外傷性くも膜下出血と診断され、翌日死亡したものです。乳がん術後のホルモン療法と慢性腎不全による透析導入予定の60歳代の患者。
・入院25日目に透析導入のため転棟。その約1時間後、ベッドサイドに側臥位で倒れている状態にて発見されました。発見時、声掛けに反応はありましたが、嘔吐と左上下肢の麻痺出現。その直後に意識レベル低下ありCTを実施したところ、急性硬膜下血腫、外傷性くも膜下出血と診断され、3日後に死亡したものです。
再発防止に向けた提言
報告事例のうち8例では、受傷直後には声掛けに反応が見られたり、あるいは、意識レベルには変化なしと判断されていたものの、その後、症状が悪化したケースでした。
このように、頭部外傷では受傷直後に意識レベルなど神経学的所見に異常がみられなくても、その後急速に症状が悪化し、死の転帰をとる事例があることが知られています。
また7例が抗凝固薬・抗血小板薬を内服中の患者でした。
急激に頭蓋内病変が進行することが多いため、神経学的異常所見が出現してから頭部CTを行った場合、手術などの治療が間に合わない可能性もあります。
そこで以下のような提言がなされています。
転倒・転落による頭部打撲(疑いも含む)の場合は、受傷直前の意識状態と比べ、明らかな異常を認めなくても、頭部CT撮影を推奨する。
急速に症状が悪化し、致命的な状態になる可能性があるため、意識レベルや麻痺、瞳孔所見などの神経学的所見を観察する。
頭部打撲が明らかでなくても抗凝固薬・抗血小板薬を内服している患者が転倒・転落した場合は、頭蓋内出血が生じている可能性があることを認識する。
初回 CT で頭蓋内に何らかの出血の所見が認められる場合には、急速に増大する危険性があるため、予め時間を決めて(数時間後に)再度、頭部CTを撮影することも考慮する。
そのほかにも6例では入院前や入院中に転倒・転落歴があったことから、「転倒・転落歴は大きな事故発生のリスク要因」として注意するようにも指摘されています。
医療過誤の裁判例・示談例
入院中の転倒・転落は、患者・家族にとっても予期せぬ重大な結果が発生しがちであることから、医療過誤ではないかという医療法律相談も多い類型になります。
ただ裁判例においては、今回の提言のような転倒後のCT等の処置が争点ではなく、転倒後の処置としては適切であったけれども、そもそも「転倒・転落が予見できたか」「転倒・転落を回避するための措置を取っていたか」「予後との因果関係があったのか」という点が争われることが多く、患者側の請求を棄却した裁判例も少なくありません。
なお入院中の事例ではありませんが、私の担当した事案としては「自宅階段から転落し後頭部痛を訴えているにもかかわらず医師が帰宅させ、その後急性硬膜下血腫により障害が後遺」したというケースがあります(医療事故「実績」)。
事案としては患者が高齢者であり、ワーファリンも服薬していたにもかかわらず、医師が帰宅させて経過観察の必要性についても説明していなかったものです。交渉の結果、早期示談解決に至りました。
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