病理診断報告書の確認忘れによる治療遅れが35件、医療安全情報150号
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病理診断報告書の確認忘れによる治療遅れが35件報告
公益財団法人日本医療機能評価機構が、「医療安全情報」150号・2019年5月号を公表しました。
病理診断報告書を確認しなかったことにより治療が遅れた事例が再び報告されています。
医療安全情報71号(2012年10月号)でも取り上げられていましたが、その後も類似の事例が35件も報告されているというものです。
そのうち実に26件は上部消化管内視鏡検査の生検組織診断の事例になります。
1つめの事例
1つ目の事例は以下の通りです。
大腸癌の術前検査のため、消化器内科医師が上部消化管内視鏡検査を施行して生検を行いました。
外科に転科後に病理診断報告書が作成されたため、消化器内科医師は結果を確認していませんでした。また、外科医師も、生検が行われていたことを把握していなかったというものです。
消火器内科と外科の間では、病理診断報告書の確認や患者への説明について取り決めがありませんでした。
この大腸癌の手術から4年後、貧血の精査のため上部消化管内視鏡検査が再び行われた際、4年前の病理診断報告書に「胃癌」と記載されていたことが発覚したものです。
2つめの事例
2つ目の事例は以下の通りです。
喉頭癌の患者に重複癌の検査目的で上部消化管内視鏡検査を施行し、生検を行いました。
ところが、内視鏡検査を依頼した主治医には病理診断報告書の結果が通知されず、主治医が病理診断報告書を確認しなかったというものです。
4年後、患者が「物を飲み込みにくい」と訴えたため、再び上部消化管内視鏡検査実施。
その際、4年前の病理診断報告書に「食道癌」と記載されていることが発覚したというものです。
病理診断報告書の確認漏れの背景
病理診断報告書の確認漏れの背景は、以下の3通りに分類できそうです。
まずは責任主体が不明確であること(無責任体制)。
病理診断報告書を誰が確認して、誰が患者に説明するかが曖昧なまま日々の診療に埋もれてしまうというケースです。
次に引継ぎが不十分であること(縦割りの弊害)。
病理診断報告書が内視鏡検査担当医にのみ通知されて、主治医には通知されなかったというものです。
最後に時期と意図の問題(ケアレスミス)。
主治医が患者に内視鏡検査報告を説明したものの、説明時には病理診断報告書はまだ未完成であり、そのまま見落とされたというものです。
また出血源の検索を目的に内視鏡検査を実施したため、その後、病理診断報告書まで気が回らなかったというケースです。
◆ 再発防止のために求められること
事例が発生した医療機関では再発防止のため、以下の取組を行うようになりました。
病理診断報告書を誰が見て誰が患者に説明するかを明確にする
・病理検査を行ったことと後日結果を説明することを患者に伝えておく。
総合評価部会としては、「病理診断報告書の確認と説明の手順を決めて実施する」ことを提言しています。
患者・家族としても、自衛のためには、検査内容については遠慮せずに主治医や看護師に確認することが肝要でしょう。
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