古賀克重法律事務所ブログ

福岡県弁護士会所属弁護士 古賀克重(こが かつしげ)の活動ブログです。

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小児もやもや病に対して頭蓋内圧更新の急性期管理を怠った注意義務違反により、痙攣発作を放置し死亡に至った事案において損害賠償請求が認容された事例

◆もやもや病とは

もやもや病とは、内頸動脈終末部を中心とする頭蓋内主幹動脈の進行性閉塞性変化を呈する疾患です。女性に多く、発症年齢は二峰性(5歳から9歳と45歳から49歳)を呈するとされます。

小児の場合は、過呼吸などを契機として一過性虚血発作(TIA)で発症することが多いとされます。
成人の場合は、約40%程度に頭蓋内出血(脳室内出血が多い)が見られます。

このように、年齢・症状の種類・頻度・画像所見などを総合的に検討した上でマネージメントする必要がある疾病です。

◆訴訟の争点

本件訴訟では、主に頭蓋内圧亢進に対する管理に注意義務違反があるかが争われました。

脳は一定の容積をもつ頭蓋骨によって保護されています。
頭蓋内を構成する要素、すなわち脳、髄液、血液のいずれかが増大し緩衝能を上回った場合には、頭蓋内圧の急激な上昇を来たすことになります。
その場合問題なのは、脳そのものが偏位し生命維持を司る脳幹が圧迫されることです。

外科的治療としては、開頭減圧術(頭蓋骨を一部除去する外減圧、脳組織を切除する内減圧)が行われ,水頭症では脳室ドレナージが有効とされています。

◆裁判所の判断

名古屋地方裁判所平成29年8月2日判決は、10月19日までに医師が水頭症と診断しなかったことについては注意義務違反を認めることはできないとしつつ、23日午後5時ころまでに頭蓋内圧亢進管理を行うべき注意義務違反があったと認定し、因果関係も認めて約6600万円の損害賠償を認めました。

 意見書は、患者はもやもや病のために脳濯流圧が低くわずかな頭蓋内圧完進でも症状の悪化を招きやすい上、脳出血と脳梗塞を発症していることから、当初は状態が安定していても、脳浮腫の進行に伴って頭蓋内圧完遂を来すことが考えられる状態にあり、脳室内出血による髄液循環障害によって頭蓋内圧が充進することを想定して管理すべきであったと指摘している。

このような指摘は、一般的医学的知見及び診療経過を踏まえたものであるから、患者について、頭蓋内圧充進に特に気を付けるべき状態にあり、医師は、患者について、10月23日午後5時頃までに頭蓋内圧亢進の管理を行うべき注意義務があったと認められる。

しかるに、前記認定事実のとおり、その後10月23日に至るまで頭蓋内圧亢進の症状である頭痛や嘔吐、嘔気が継続しているにもかかわらず、頭蓋内圧亢進の状況を確認するための処置をしたと認めるに足りる的確な証拠はない。

患者は、もやもや病である上、脳出血と脳梗塞を発症していることから、頭蓋内圧が充進することを想定して管理すべきであり、その管理の方法としては脳室ドレナージも積極的に検討すべきであったところ、頭蓋内圧亢進の症状としても説明可能な頭痛、嘔吐、嘔気が継続して存在していた点に加え、水頭症の判定基準は満たさないものの側脳室の下角が2mm以上に拡大していた点、右大脳の病変に著しい変化が認められないのに10月22日及び10月23日に意識レベルの低下が見られた点並びに10月19日及び10月22日のCT画像上、若干ではあるがミットラインシフトが見られていた点をも併せ考慮すれば、医師は、脳室ドレナージを行うか、或いは脳圧モニターを留置して頭蓋内圧を測定するなどして、頭蓋内圧の完進を管理すべき注意義務があったというべきであり、水頭症になったかどうかについて留意していたという医師の診察では不十分であったといわざるを得ない。

以上によれば、医師に10月23日午後5時頃までに脳室ドレナージなどの頭蓋内圧亢進の管理を行うべき注意義務違反があったと認められる。

投稿者プロフィール

弁護士 古賀克重
弁護士 古賀克重弁護士
弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。

弁護士 古賀克重

弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。