古賀克重法律事務所ブログ

福岡県弁護士会所属弁護士 古賀克重(こが かつしげ)の活動ブログです。

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「裁判官の視点 民事裁判と専門訴訟」、裁判官から見た医療訴訟におけるポイントとは

◆「裁判官の視点 民事裁判と専門訴訟」が発刊

 商事法務から「裁判官の視点 民事裁判と専門訴訟」(編著門口正人)が2018年3月に出版されました。
 執筆者6名はいずれも元裁判官で、高等裁判所の裁判長経験者です。

 一般民事訴訟や控訴・上告以外に、「会社訴訟」「知財訴訟」「建築訴訟」「行政訴訟」「医療訴訟」「労働訴訟」など専門訴訟を中心に取り上げた点が特徴です。

 「医療訴訟」は第6章として福田剛久弁護士(元東京地方裁判所医療集中部裁判長)が担当しています。
 医療訴訟も医療過誤を専門に扱う弁護士にとっては前提となる事実や背景の説明ではありますが、コンパクトに分かりやすくまとまっています(なお福田氏が編集した詳細な医療訴訟の専門書としては、「最新裁判実務体系2 医療訴訟」(青林書院)があります)。

 少し目についた記述を取り上げてみます。

◆認容率低下は法曹人口増による不慣れな弁護士増も一因

 医療訴訟の平均審理期間は、平成12年の35・6か月から平成28年には24・2か月に短縮していますが、民事事件全体の平均審理期間は8・6か月ですから、それに比べると3倍近い審理期間になっています。

 なお人証調べを実施した事件についてみると、医療訴訟では33・4か月となっておりまだ3年近くかかっていますし、鑑定まで実施した事件の平均審理期間は49・6か月になっています。

 医療訴訟の認容率は、平成12年から19年までは30%をこえていましたが、平成20年に30%を切ってからは20%台が続いていて、平成27年は20・6%になっています。

 筆者は、医療訴訟の認容率が減少傾向にあることについて、和解率に大きな変動はないから和解率の高さによっては説明できないとします。

 そして原告患者側の請求が認容される可能性の高い事件は、訴訟になる前に示談あるいは医療ADRによって解決されることが増えたため、訴訟になる事件は従来よりも解決が困難な事件が増えてきたことがあると指摘します。

 その上で、「法曹人口が増えて、医療訴訟に不慣れな弁護士が医療訴訟を担当することも多くなり、的確な主張立証ができていないということが増えているのかもしれない」(219頁)と推測しています。

◆事実認定の重要性

 同書では医療訴訟における事実認定の重要性についても頁をさいて説明しています。

 「医療訴訟の審理の困難さは、専門性もさることながら、この事実認定にある」として、「医療記録を緻密に読みこなして事実経過を正確に把握することは骨の折れる仕事である」「手技、検査、入院管理、適応、治療方法・時期、転医義務のいずれの分野でも、具体的な事実経過(検査、診断、投薬、治療、手術経過、術後管理などの医療行為とそれを受けていた患者の状態の変化)が明確に認定されれば、書証として提出された専門文献等の記述により自ずと一定の結論に至ることも少なくない」(238頁)と指摘します。

 われわれ患者側弁護士が行う「医療調査」においても、まずは診療録を「法律家の目」を通してスクリーニングしていくことが出発点として重要になります。

 「カルテくらいなら自分でも読める」「カルテの記載が十分でないから依頼しているのに」「それが医療調査ですか」などと不満を口にする依頼者も時々おられます。ですから私もこの事実認定の重要性を繰り返し説明するようにしています。

 また裁判の主治医等に対する反対尋問の場面においても、医学的知見はもちろんのこと、診療録をいかに読みこなしておくか、事実の流れを細かい点まで抑えているかがポイントになることも少なくありません。

◆協力医との関係構築の重要性

 同書はまた事案の内容にもよると留保しつつも、「患者側に適切な協力医がいるかどうかで、医療訴訟が円滑に進行するかどうかが決まるような事件も少なくない」、「協力医の依頼は弁護士の個人的な『つて』を辿って依頼したり、その医師の書いた論文をもとに依頼したりという方法が主たるものであり、容易なことではない」(261頁)と言います。

 これはまさにその通りでしょう。
 私が「医療調査」、「損害賠償(示談)」、「訴訟」のいずれのステージであっても、全ての事件について必ず協力医の意見を聞くようにしています。

 大学・医局・学会など横つながりの深い、ある意味で狭い医療界にあって、しかも日常極めて忙しい診療や大学での指導を行う医師が、個別紛争に巻き込まれたくない、関わりたくないという思いをもつのは自然の理。

 私も25年近く患者側弁護士として活動してきて、ようやくいろんなルート(診療科目)の協力医との関係を築くことができていますが、当初は苦労したものです。

 論文を見て手紙を書いた方から中には訴訟の鑑定医だった方、事件の相手方だった医師など様々なルートを通じて、「協力医」との関係を深めてきました。

 一つ一つのケースに誠実に向き合うことによって、信頼関係を構築していくことが大事ですが、それにとどまらず協力医とのコミュニケーションを通じて研鑽していく姿勢も、患者側弁護士としては肝要だといえるでしょう。

投稿者プロフィール

弁護士 古賀克重
弁護士 古賀克重弁護士
弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。

弁護士 古賀克重

弁護士古賀克重です。1995年に弁護士登録以来、患者側として医療過誤を取り扱っています。薬害C型肝炎訴訟の弁護団事務局長として2008年の全面解決を勝ち取りました。交通事故も幅広く手掛けており、取扱った裁判が多数の判例集で紹介されています。ブログではその主たる取扱い分野である医療過誤・交通事故について、有益な情報を提供しています。