救急搬送された中学生死亡事案でCT検査を行うべき注意義務違反を認定し患者逆転勝訴、東京高裁が3200万円の賠償命令
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東京高裁がCT検査を行うべき注意義務違反を認定
長野県安曇野市の少年(当時13歳)が脳ヘルニアによって死亡した事案について、東京高等裁判所は2018年3月28日、少年が救急搬送された波田町立波田総合病院(現・松本市立病院)が適切な検査を怠ったものであると注意義務違反を認めました。
遺族が松本市立病院を運営する松本市及び担当医師に対して約7200万円の損害賠償を求めていたもの。
1審横浜地裁は原告の請求を棄却したため、遺族が不服として控訴していたものです。
東京高等裁判所は被告らに対して約3200万円の損害賠償を命じたもので、患者側の逆転勝訴となります。
判決によると、少年は2009年、頭痛などの症状を訴え、同病院に救急搬送された。担当医師は急性胃腸炎などと診断し、点滴後に帰宅させた。その後に体調が悪化し、別の病院に搬送され、死亡した。
杉原裁判長は、脳の病気を疑い、CT検査を行う義務があったのに怠ったと認定。遅くとも退院時に検査して治療を始めていれば救命できた可能性があるとし、「限られた治療を受けただけで帰宅させられた苦しみと無念さは察してあまりある」と指摘した。
市立病院は「判決文を見ていないのでコメントは差し控えたい」としている(2018年3月29日付け朝日新聞)
救急医療における医療過誤訴訟
救急医療における処置が争点となる医療過誤訴訟は少なくありません。
この点、救急医療における注意義務の水準も、一般の診療科の医師と同様に、「診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準」になります。
ただし、救急医療における医療行為の評価にあたっては、その性質上、特徴的な事情も考慮されます(医療機関のレベル・人的/物的体制など)。
救急医療においては、救急患者の主訴・搬送される経緯・バイタルをふまえて、重症度・緊急道を判定します。
その上で、血液検査、動脈血ガス分析、尿検査、心電図、X線検査やCT検査などの初期検査によってスクリーニングしていくことになります。
脳ヘルニアとは病変がある限度以上に増大する場合に、脳組織の一部が頭蓋内腔の区画を越えて移動・突出する病態。
原因としては頭蓋内占拠性病変(腫瘍・血腫・腫瘍)や脳浮腫、水頭症などで起こります。
本判決は「脳腫瘍に気付いて命を救えた可能性がある」としていますので脳腫瘍ケースでしょう。
脳ヘルニアの症状としては意識障害・呼吸障害などがでますが、CTやMRIが補助検査として有用とされています。
本件の具体的な経過・患者の状態に照らして、初期検査であるCT検査を行うべきであったという注意義務違反を認定した判決になります。
なお損害額は注意義務違反・因果関係を認めた事例にしては低額ですが、そもそもの患者の予後などが考慮されたのかもしれません。