旧優生保護法による知的障害者に対する強制不妊手術で訴訟提起、政治的解決も視野に動き
目次
◆ 仙台地裁に初提訴、そして追加提訴
旧優生保護法(1948年から1996年)によって知的障害者が不妊手術を強制されていた問題。
知的障害を理由に不妊手術を強制されたとして、宮城県の女性(60代)が2018年1月30日、国に対して、1100万円の損害賠償を求める訴訟を提起しました。
旧優生保護法は、優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するという目的として、遺伝性疾患、精神障がい、ハンセン病等を有する人に対して、一定の要件の下で優生手術及び人工妊娠中絶を実施することができると定めていました。
つまり特定の疾患や障がいを有していることを理由にして優生手術及び人工妊娠中絶の対象とする法律でした。
しかしながら特定の疾患や障がいを理由として優生手術及び人工妊娠中絶の対象とすることは著しく不合理であり、憲法14条の平等原則に違反することは明らかというべきでしょう。
ハンセン病違憲国賠熊本判決でも「昭和24年から平成8年まで行われたハンセン病を理由とする優性手術は1400件以上」と認定されています。
そして旧優生保護法によって強制的に不妊手術をされた人数は、少なくとも全国で1万6475人に達すると指摘されており、提訴したのはまさに氷山の一角にすぎません。
資料が散逸しており被害実態が補足しにくいという問題がありますが、宮城県は、「優生手術の直接的な証拠となる記録がなくても手術を推認できる書類があれば、県として手術の事実を認める」という方針を出しました。
かかる方針をふまえて、宮城県の70代女性も追加提訴に加わる予定です。
◆ 政治的解決の動き
仙台地裁に訴訟を提起した原告は、国会で2004年3月、救済の必要性が議論されたことを指摘した上、立法に必要な合理的期間である3年が経過した後も救済しなかった過失があると主張しています。
その意味でも国会の不作為が問われている問題といえます。
そのためこの問題については与党内からも早期に解決を模索する動きがあります。
公明党の山口那津男代表は、強制手術について「本人の意に反して手術が施されたのであれば人権上問題がある」と指摘した。そして「何らかの救済という結論を導けるよう、今後しっかり議論を深めるべきだ」とも語った。
この問題をめぐっては、自民党の尾辻秀久・元厚生労働相を会長とした超党派議連が3月にも発足し、議員立法での救済も視野に議論を始める。自民党内にもプロジェクトチームを作る案が出ている。厚労省は当時は適法だったとして補償に慎重だが、幹部は今後については「与党次第だ」との見方を示している(2月20日・朝日新聞)
◆ 求められる被害実態の把握
一方において、仙台、札幌、東京、大阪、福岡において2月2日に弁護士らによる電話相談が実施されました。
しかし福岡での相談は0件など相談自体はまだかなり少なく手をあげられない患者・家族が多数いると思われます。
例えば北海道では全国最多の2593件の強制不妊手術を行っていることが判明していますし、行政自ら被害回復への道筋を立てていくことが求められているでしょう。
与党の政治的解決の前に、行政(厚労省)による積極的な対応も求められています。
この点、日本弁護士連合は既に2017年2月16日、「旧優生保護法下において実施された優生思想に基づく優生手術及び人工妊娠中絶に対する補償等の適切な措置を求める意見書」を厚生労働大臣に提出し、謝罪・補償措置とともに実態調査を求めていました。
第1 意見の趣旨
1 国は,旧優生保護法下において実施された優生思想に基づく優生手術及び人工妊娠中絶が,対象者の自己決定権及びリプロダクティブ・ヘルス/ライツを侵害し,遺伝性疾患,ハンセン病,精神障がい等を理由とする差別であったことを認め,被害者に対する謝罪,補償等の適切な措置を速やかに実施すべきである。2 国は,旧優生保護法下において実施された優生思想に基づく優生手術及び人工妊娠中絶に関連する資料を保全し,これら優生手術及び人工妊娠中絶に関する実態調査を速やかに行うべきである。
◆ 強制不妊救済法が成立
2019年4月、強制不妊救済法が成立して、被害者に一律320万円の一時金が支給されることになりました。
ハンセン病違憲国賠訴訟、薬害C型肝炎訴訟などは、国が法的責任を強く争ったため、司法判断が下された後に政府が政治決断して、救済法が制定するという流れをたどりました。
これに対して、本件では、7地裁で係争中であるにもかかわらず、世論の広がりを受けて、政治主導で先に救済法が成立するという異例の経緯となりました。
7地裁判決が出そろうには時間がかかり、控訴審・最高裁も視野に入る本件において、早期に法律が制定されたことは、一時金の額が被害に照らして少額とはいえ、国会主導で法律が制定したことは一定の評価ができるでしょう。
一方において、司法判断を経ていないため、被害者らの被害実態や要望を反映しきれていません。
今後はいかに被害者に情報を提供するかが問われることになります。
ハンセン病や薬害C型肝炎などの問題では、国家賠償請求訴訟の判決を踏まえて救済法ができた。旧優生保護法下での強制不妊問題は司法判断が出る前に法律が成立した珍しいケースだ。
被害者の高齢化を踏まえ与野党が制定を急いだ。国の法的責任は棚上げにし、一時金320万円を一律支給する内容。ただ補償の増額や国の直接的な謝罪を求める声も上がっている。ハンセン病訴訟で熊本地裁は2001年、患者隔離政策を違憲と認め国に賠償を命じた。小泉純一郎首相(当時)が控訴断念を決め、直後に議員立法で補償金支給法が成立。入所期間に応じて元患者に800万~1400万円が支払われた。
血液製剤による薬害C型肝炎では、各地の集団訴訟で原告勝訴が続き、福田康夫首相(同)が一律救済を表明し、1200万~4千万円を給付する特別措置法が08年に成立した。
集団予防接種での注射器使い回しが原因のB型肝炎問題は、06年の最高裁判決が国の責任を認定。その後の訴訟で提示された和解案を、国と患者側の双方が受け入れ、11年に特措法が成立した(2019年5月29日付河北新報)
◆ 仙台地裁判決は違憲と判断
その後、全国7地裁で審理が早く進んだ仙台地方裁判所は2019年5月28日、判決を下しました。
仙台地裁は、「旧優生保護法は子を産み育てる幸福を一方的に奪った」、「(子どもを産み育てるかどうかを決める権利について)憲法13条に照らして尊重されるべきである。旧優生保護法はその幸福を一方的に奪い去ったものだ。権利侵害の程度は極めて甚大である」として、憲法に違反していると判断しました。
一方において、除斥期間の20年が経過していることから、原告らの請求自体は棄却したものです。
結論的には被害者の望むものではなかったとはいえ、性と生殖に関する権利(リプロダクティブ・ライツ)が日本国憲法で保障されると正面から認め、かつ、違憲と判断したことは重みをもつことになります。
今後の他地裁における司法判断や、場合によっては強制不妊救済法の改正論議に一石を投じることは間違いないでしょう。