ハンセン病家族訴訟が提訴から2年、国が迅速な審理に応じず
目次
◆ ハンセン病家族訴訟が訴訟提起から2年
ハンセン病の家族訴訟が訴訟提起から2年を経過しました。
原告59名が2016年2月15日、熊本地裁に提訴していわゆる「ハンセン病家族訴訟」が開始しました。同年3月29日には509名の原告が提訴し、原告は合計568名になっています。
ここでいう「家族」とは、父母、あるいは同居の親族がハンセン病に罹患したために、ハンセン病に対する偏見・差別のある社会の中で様々な苦労を背負わされた方々を言います。
つまり国の90年を越える強制隔離政策・終生隔離政策によって被害を受けたのは患者だけではなくその家族に及んだことについて国の法的責任を求める訴訟です。
被告国はハンセン病隔離政策が家族に対して及ぼした責任を否定して請求棄却を求めています。
◆ 求められる迅速な集中証拠調べ
原告弁護団は2017年9月には原告本人尋問対象を25人に絞り込んでいましたが、なかなか尋問期日が決定していませんでした。
早期審理に抵抗する国と早期審理を躊躇する裁判所の姿勢が背景にあると思われます。2月14日の進行協議において、本年3月から4月にかけて6名の尋問を実施することになりましたが、この手の大規模集団訴訟にしてはかなり少ない人数といえるでしょう。
例えば、薬害スモン東京訴訟では1976年5月から9月までの4か月間で原告154名全員の尋問を実施しました。
また薬害スモン福岡訴訟もほぼ同時期に100名を超す原告本人尋問を実施しています。
さらに薬害エイズ東京訴訟においても、1994年4月から同年7月にかけて非公開集中証拠調べで44名の原告本人尋問を実施しました(「集団訴訟実務マニュアル」(日本評論社・拙著)62頁)。
政府の方針で、平成27年4月10日には訟務局が新設設置され、人的体制の強化も図られたわけですから、熊本地裁における訟務検事(国の代理人)の消極姿勢はかなりの批判に値します。
ハンセン病家族訴訟の原告らの平均年齢は66歳・最高齢は97歳に達しますので早期審理が何よりも必要な訴訟といえるでしょう。
男性らの提訴から2年。審理は「来年春までの判決」を求める原告側の想定より遅れが目立つ。
原告側によると、熊本地裁は原告568人全員に対しまとめて判決を出す意向だ。弁護団は昨年9月に尋問対象の原告を25人にしぼり、早期の尋問開始を求めてきたが、日程は決まらなかった。1日で尋問できるのは3人程度であるため、弁護団は「毎月1、2回は開廷してほしい」と主張したが、国の担当者は「他の事件も抱えて忙しい」「原告全員の陳述書を読むのが大変だ」などと難色を示したという。
14日にあった3者(原告、国、裁判所)の協議でようやく3~4月に計6人の尋問を行うことで合意した。しかし、国側がどこまで迅速化に協力するかは不透明なままだ。弁護団のメンバーは「秋までに実質審理が終わらなければ、来春の判決は難しくなる。元患者や家族が生きている間の解決も遠のく。国はきちんと体制をとってほしい」と話す。
法務省訟務局は「原告側の気持ちも理解できるので、審理の迅速化にはできる限り協力したい」としている(2018年2月5日付け毎日新聞)
◆ 関連サイト
「ハンセン病家族訴訟とは」(古賀克重法律事務所)