福岡県内の歯科医院の虫歯治療で2歳女児が低酸素脳症を後遺した後に死亡、警察が捜査
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◆ 2歳女児が福岡の歯科医院で低酸素脳症に
福岡県内の小児歯科医院で虫歯治療した患者(当時2歳・女児)が2017年7月、治療直後に低酸素脳症を発症して、2日後に死亡したことが判明しました。
死亡したのは当時2歳だった山口叶愛ちゃんです。叶愛ちゃんは去年7月、福岡県内の小児歯科医院で局所麻酔を使用した虫歯の治療を受けた後、唇が紫色になり、目の焦点が合わない状態になりました。
関係者によりますと、異変を訴える両親に対し、男性院長は「よくあることだ」と説明して、何の医療措置もとらず、およそ45分後に両親が自力で叶愛ちゃんを近くの病院に運んだということです。叶愛ちゃんはその後、大学病院に救急搬送されましたが、低酸素脳症に陥り、2日後に亡くなりました。
大学病院から通報を受けた警察は、業務上過失致死の疑いがあるとみて捜査しています。小児歯科医院の院長は「必要な措置はとったと考えている」とコメントしています(1月15日・TBSニュース)
◆ 歯科医療事故の法的論点
歯科の医療事故では、説明義務を巡るトラブル、インプラント、抜歯・補綴治療、麻酔時の事故などが見受けられます。
また抜歯に関する注意義務としては、抜歯の適応、手技上の注意義務違反、説明義務違反などが争点になっています。
本件については詳細な診療経過が不明ですが、一般的には、歯科医院が事前の問診義務を尽くしていたか、局所麻酔の手技に問題がなかったか、麻酔後の経過観察が妥当であったか、さらに転院義務違反がないか、仮に経過観察を行い適時適切に転院させた場合に救命の高度の蓋然性があったのか等が問題になってくるでしょう。
報道によると歯科医院の院長は「よくあること」と述べるだけで45分も放置していたということですから、麻酔後の経過観察について問題がありそうです。
両親自ら病院に運んだということであり、歯科医院としてアナフィラキシーの基礎的な医学的な知見についてどの程度認識していたか疑問があります。
◆ 原因は急性リドカイン中毒か
その後、司法解剖の結果、女児は急性リドカイン中毒による低酸素脳症の可能性が高いことが判明しました。
また女児の歯茎粘膜に出血が確認されたことから、誤って血管に麻酔薬が投与された可能性も司法解剖の結果、明らかになっています。
歯科用局所麻酔剤であるオーラ注歯科用カートリッジ(リドカイン塩酸塩注射剤)の添付文書によると、基本的な注意として、「注射針が適切に位置していないなどにより神経障害が生じることがあるので、穿刺に際し異常を認めた場合には本剤の注入を行わないこと」、「患者の全身状態の観察を十分に行うこと」、「注射針が血管に入っていないことを確かめること」などが指摘されています。
◆ 歯科麻酔を巡る民事裁判例
本件のように低酸素脳症を発症して死亡にまで至る重篤なケースは多くありませんが、抜歯の際の麻酔や手技によって12級から14級程度の舌神経麻痺が残るケースは少なくなく、医療相談としても少なくない分野です。
歯科麻酔を巡る裁判例としては、局所麻酔であるキシロカインによって重症筋無力症の患者の上肢下肢の筋肉低下が誘発されたとして慰謝料300万円を認容した東京地裁昭和58年11月10日判決やキシロカインのアナフィラキシーショックによって死亡したケースについて医療機関の責任を否定した青森地裁平成15年10月16日判決などがあります。