「医療基本法~患者の権利を見据えた医療制度へ」が発刊
目次
2000年以降の基本法の増加
最近成立する法律に「基本法」と名がついたものが増えています。
例えば、宇宙基本法、エネルギー政策基本法、犯罪被害者等基本法、自殺対策基本法、がん対策基本法・・
実は2000年から2016年にかけて35本もの「基本法」が国会で成立しているのです。
これら「基本法」と名の付く法律は、一般的には、「国会が法律の名において、政府に対して、国政の一定の政策・法律の基準を明示して、それに沿った措置をとることを命ずる」という性格を帯びます。
つまり、社会情勢の変化や科学技術の進歩、それに伴う社会問題への対応が迫られていることの証左といえます。
医療基本法とは
医療分野でも既に、「がん対策基本法」や「肝炎対策基本法」などが成立していますが、長らく議論されているもののまだ成立していない重要な基本法として、「医療基本法」があります。
医療基本法は、患者の権利運動から議論がスタートしたものですから、「患者の権利法を作る会」や「日本弁護士連合会」などが既に医療基本法案を公表しています。
一方、医療界からも様々な提案がなされています。
例えば、全日本病院協会は平成25年2月、医療基本法案を承認・公表しており、「医療に対するニーズは多様化、高度化する新しい時代に合致する医療のあり方、医療提供のあり方を規程する医療基本法が制定されるべきである」と提言しています。
また日本医師会も平成28年6月、「医療基本法(仮称)にもとづく医事法制の整備について」を公表しています。
さらに救急医療関連3団体は平成21年12月、「(仮称)救急医療基本法~救急医療整備のための法的根拠の確保にむけて」を取りまとめています。
それぞれの団体の力点は当然異なり、濃淡の差があるのですが、現在の医療の置かれた状況に鑑みて何らかの基本法を制定する必要性があることについてはコンセンサスが得られつつあります。
「医療基本法~患者の権利を見据えた医療制度へ」
そのような状況をふまえて、2017年11月、「医療基本法 患者の権利を見据えた医療制度へ」(医療基本法会議編・エイデル研究所)が発刊されました。
本書は、2010年に開催された日本医事法学会40周年記念大会のシンポジウムテーマだった「医療基本法を考える」の報告後、報告者の大半をコアメンバーとして議論を継続して取りまとめたものです(同書・3頁・はしがき)。
手嶋豊教授、山口斉昭教授、鈴木利廣弁護士、上杉奈々氏ら7名が分担執筆しています。
医療基本法の論点として、患者や医療サービスの利用者の「権利」を確定する内容が含まれているのは当然として、他の関連法規との関係についてもときほぐしていきます。
その上で、様々な論点を団体の主張ごとにまとめつつ、各論では、「医学教育」、「産婦人科医療」、「救急医療」、「精神科医療」における検討課題についても言及されています。
これから議論が深化していくであろう「医療基本法」を考える時に、基本書的に手元に置いておきたい一冊でしょう。
いよいよあるべき医療制度を目指した医療基本法制定の議論が国会において上程されるのではないかとの噂もある。医療基本法はすべての人々にかかわりを持つ法政策であり、多くの関係者(ステークホルダー)の意見が反映されたものになることが望ましい。
医療制度のあり方についての本格的問題提起である本書を、関心のある方々、いやすべての人々に読んで頂きたいとの思いで出版に至ったものである(あとがき・鈴木利廣)。